災害対策や防犯目的のため、銀行の貸金庫を利用されている方は多いですが、使い方によっては相続手続の際に貸金庫がネックになってしまうことがあります。
場合によっては、貸金庫を使っていたために相続登記をはじめとする相続手続きががスムーズにできず、困ってしまうという事態もありえるのです。
今回は、相続手続きをスムーズに進めるためにはどうしたらよいかという観点から、貸金庫の利用方法についてご説明します。
貸金庫に入れてはいけないもの
貸金庫に大切なものをしまっておくというのはよいことですが、何でもかんでも貸金庫に入れておけばいいというものではありません。
逆に、大切なものであっても絶対に貸金庫に入れておかないでいただきたいものがあります。
それは、貸金庫を借りているご本人が書いた遺言書です。
金融機関は相続関連のトラブルを避けるため、貸金庫の契約者が亡くなった場合には、貸金庫の利用を停止します。
これは、相続人の誰かが金庫の中身を勝手に持ち出して、他の相続人からクレームが出ることを防ぐためです。
そのため、貸金庫に遺言書が入っていた場合には、相続人であっても容易には持ち出すことができず、他の相続人の同意が必要となるのです。
たとえば、子どものいない夫婦が相続手続きをスムーズにするため、お互いに遺言書を書いていたとしましょう。
自筆の遺言書に「すべての財産を妻である○○に相続させる」と書かれていることを妻が知っていたとしても、封がされていれば他人には中身は分かりません。
そうなると、貸金庫の中の遺言書を持ち出すためには、亡くなった夫のきょうだい全員の同意が必要となります。
このとき、夫のきょうだいに連絡のつかない人がいたり、認知症の人がいたりすると遺言書が持ち出せません。
遺言書が使えれば必要がなかったのに、貸金庫に入れていたせいで後見人や不在者財産管理人を選任しなければならなくなってしまうと、時間とお金が無駄にかかってしまいます。
夫が書いた遺言を妻名義の貸金庫に入れておく、というのなら問題ありませんが、貸金庫には相続手続きを進めるのに必要となるものは入れてはいけないのです。
貸金庫に入れる際には注意すべきもの
貸金庫に入れてもおいてもいいけれど、注意が必要となるものは、貴金属類です。
相続税の申告が必要な場合には貴金属の価格を評価しなければなりませんし、遺言がない場合には貴金属類も遺産分割協議の対象になりますが、そもそも評価が分からなければ遺産分割協議ができませんよね。
でも、貸金庫に入ったままでは鑑定・評価ができないので困ってしまうのです。
金のインゴットや高価な宝石類など、資産価値の高いものを貸金庫に入れておく場合には、あらかじめ遺言書で渡す相手を決めておくほうがスムーズです。
貸金庫に入れても問題ないもの
所有者が亡くなった後には使われないものについては、貸金庫に入っていても差し支えありません。
例えば、実印や銀行印については、生前には重要なものですが、所有者の相続が開始した後には使われることがないため、貸金庫にしまわれっぱなしでも問題ありません。
不動産の権利書は、相続人が相続する場合には相続登記の際に使用しません。
遺言によって相続人以外の誰かに遺贈することになっている場合には登記申請の際に使うこともありますが、なくても登記手続きは可能であるため、貸金庫に入ったままでも大丈夫です。
また、預金通帳についても口座の所有者の相続手続きには不要です。
一部の金融機関では、相続による解約の際にも通帳の提出を求められることがありますが、再発行(多少の手数料はかかりますが)すればよいので、貸金庫に預けたままでも手続きをすることは可能です。
生命保険の証書については貸金庫に入れてもいいですが、受取人が保険の存在を把握できていないと受け取りが遅くなってしまいます。
証書は貸金庫に入れていたとしても、保険金の受取人になっている人が保険の内容を把握できるように準備(どこの保険会社と契約しているか伝えておく、証書のコピーを渡しておくなど)しておくのが良いでしょう。
まとめ
貸金庫を利用する場合には、
・貸金庫の契約者が作成した遺言書は絶対に入れてはだめ
・すぐに持ち出せないと困るものは入れる場合にはよく考えて
・契約している保険会社や利用している金融機関は相続人が分かるように準備しておく
というポイントを押さえておけば、相続の際の困りごとは相当軽減できるはずです。
貸金庫を利用中の方、これからの利用を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。