ちまたで呼ばれている相続放棄と本来の相続放棄の違い
相続に関するご相談を受けているときに、ご相談者様が「父相続の時には相続放棄したので~」という発言をされることがあります。
そこで詳しく伺ってみると、その多くは「兄がすべての遺産を相続することになったから、書類にハンコを押した」というような内容なのです。
これは「遺産分割協議のうえで何も取得しなかった」だけであり、法律で定められた本来の相続放棄とは異なるものです。
本来の相続放棄をするためには、単に他の相続人に対して宣言するだけでなく、家庭裁判所に対して相続を放棄する旨の申立てをしなければなりません。
どちらも財産を相続していないという点からは同じようなものに見えるのですが、この二つの間には明確な違いがあるため、これから相続が発生した場合、あるいは相続が発生したばかりでまだ何も手を付けていないときに、どちらの手続きを選ぶかというのは重大な問題なのです。
そこで、今回は相続放棄についてご説明いたします。
相続放棄をするとどうなるのか
相続放棄によって、二つの変化が生じます。
①相続放棄をすることによって、放棄した人は最初から相続人ではなかったことになります。
被相続人(亡くなった方)の財産は一切相続できなくなりますが、その反面、被相続人の債務も一切承継しなくて済むようになります。
②相続放棄をすることによって、相続人が代わることがあります。
例えば、被相続人の子どもが全員相続放棄すると、被相続人の親が代わりに相続人になります。
さらに親も全員相続放棄した場合、被相続人のきょうだいが相続人になります。
ただし、被相続人の子どもの一部だけが相続放棄した場合には、相続放棄をしなかった子どもは相続人のままであり、法定相続割合だけが変化することになります。
相続放棄か遺産分割協議か
遺産を受け取らなくていい、もしくは遺産を受け取りたくないとき、遺産分割協議でよいのか相続放棄まですべきかということが問題となります。
単純に財産がいらないだけで、被相続人が多額の借金をしているという事情もなければ、相続人同士で話し合いをして、他の人が遺産を取得することに同意すればそれで済みます。
この場合、遺産分割協議書に実印を押して印鑑証明書を提出することになりますが、手続きとしては簡単です。
では、被相続人に多額の借金があった場合にはどうでしょう。
この場合、被相続人の財産が少なく、それ以上の借り入れがあることが明白であれば相続放棄をするのがよいでしょう。
しかし、被相続人の借金が節税のためのアパートローンであり、あなた以外の相続人がアパートを相続する代わりに借金も引き継ぐことが決まっていて、金融機関の同意もあるのであれば、あえて家庭裁判所で相続放棄までする必要はありません。
相続放棄をするのかしないのかを判断するのは、被相続人の財産と債務を調査してからでなければ難しいということですね。
相続放棄の費用はだれが負担する?
相続放棄によって、それまで相続人ではなかった方が相続人となった場合、その方も相続放棄をするのかしないのかという選択を迫られます。
相続放棄をされた理由が、多額の借り入れがあったり、不要な財産(農地や山林など)が大量にあるという理由だった場合、新たに相続人となった方も相続放棄を望むでしょう。
こういったケースで、誰が費用を負担すればよいのかというご相談をいただくことがありますが、正直なところ正解はありません。
原則的には、先順位の相続人が後順位の相続人の相続放棄の費用を負担する必要はありません。
ですが、参考までにお話しすると、その後の親族間の関係が悪化することを避けるため、後順位の相続人の相続放棄の費用もまとめて負担される方もいらっしゃいます。
まとめ
今回は、相続放棄についてご説明いたしました。
・俗に言う「相続放棄」と本来の「相続放棄」は別物
・相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになる
・相続放棄によって、相続人ではなかった人が相続人になってしまうことがある
・相続放棄をすべきか、遺産分割協議で済ませるかは被相続人の財産や借入の状況による
・かかる費用は相続放棄を申し立てる人の負担が原則ではある
なお、借入が多額で、相続放棄によって新たに相続人になる方まですべて相続放棄をされたい場合、準備する書類に重複するところが多いため、当事務所では、まとめてご依頼いただく際には書類作成費用の割引もおこなっております。
相続放棄のことでお困りの際には、ぜひご相談ください。