遺留分への配慮は大事だけれど・・・
前回のコラムで、遺言を作成する際には遺留分に配慮するのが大事であるというお話をしました。
配偶者、子(孫)、親(祖父母)には遺留分という権利があるため、安易に偏った内容の遺言を作成してしまうと、優遇したかった相手が逆に不利になってしまうことがあるのです。
ですから、遺言書を書く時には遺留分に注意しなくてはならず、筆者が相談をお受けするときにも遺留分については細心の注意を払っています。
ですが、世の中の多くのことに例外があるように、遺言にもまた例外があるのです。
場合によっては、遺留分への配慮が裏目に出てしまうことすらありますので、今回はその例外についてご紹介いたします。
遺留分を無視してでも遺産を渡さないほうが良い場合もある
相続人の中に行方の知れない人物がいた場合、その相続人の遺留分を考慮した遺言を作成すると、かえって面倒なことになってしまうことがあるのです。
連絡のつかない相続人が財産を取得することになっても、遺言執行者がその相続人にコンタクトをとることができなければ手続きをすることはできません。
遺言執行手続を完了させるためには、「不在者財産管理人」を選任し、相続させるべき財産を管理してもらわなければなりませんが、本人がいつ帰ってくるか分からず、失踪宣告がされたとしても取り消される可能性があるため安心できません。
このため、行方不明の相続人がいる場合には、その相続人には遺産を渡さない内容の遺言書を作成し、除籍期間(遺留分侵害額の請求が可能な期間)が経過してしまうのを待つ方が手続きが楽になるのです。
また、単に遺産を渡したくない相続人がおり、その相続人から遺留分侵害額を請求されるかどうか予測できないときには、通常であれば遺留分を考慮すべきです。
しかし、遺産の内容が現金若しくは現金化しやすい財産ばかりであるならば、相続人間の仲が悪くなることを覚悟のうえで遺産を受け取れない相続人がいるという遺言を作成するのはアリです。
遺留分を無視した遺言を作成した場合の注意点
遺産を渡さない相続人がいるときには、注意しておくべき点があります。
それは、遺留分侵害額相当の現金を用意しておくということです。
遺留分侵害額を請求されても十分に現金があるという理由で、相続人同士の仲違い覚悟で特定の相続人を極端に優遇した遺言を作成し、相続開始後に相続人全員に遺言と財産目録を開示した場合には、1年間請求されなければ遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。
なので、遺留分侵害額に相当する額のお金を1年間ストックしておけば
一方、行方の知れない相続人を手続きから事実上排除するために遺留分を無視した遺言書を作成した場合には、行方不明だった相続人がひょっこりと帰ってくる可能性に備えておかなければなりません。
具体的には、相続開始から10年間、遺留分侵害額を請求されても支払えるようにお金をストックしておくことになります。
まとめ
今回は遺言書を作成するときの鉄則、遺留分への配慮についての例外をご紹介しました。
・遺産を一切渡さないほうがよいケースがある
・遺産を渡さない場合には、一定期間遺留分侵害額の請求には備える必要がある
というのが今回の内容でした。
遺言の作成時には、気を付けるべきポイントが多数ありますので、ご心配であればお気軽にご相談ください。