金銭的損得から考えるおふたりさまの遺言書の要否

遺言作成にお金をかけるのは無駄?

遺言の作成についてのご相談をお受けしている際、お客様が気にされることの上位に費用の問題があります。

確かに司法書士に依頼をするとそれなりの報酬をお支払いいただくことになりますし、ご夫婦で作成されれば単純にほぼ倍のコストがかかります。

そうなると、わざわざ現時点でお金をかけなくても、実際に相続が発生したときにどうすればいいか考えればいいや、という方向に気持ちが傾きがちです。

ですが、相続に関することは、相続が始まってしまった後ではどうにもならないことばかりなので、対策するなら生前に、なおかつ元気なうちにやっておくべきです。

今回は、遺言を作っておくことの損得を、金銭面から考えてみたいと思います。

おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)の相続リスク

ときどき勘違いしていらっしゃる方もおられるのですが、お子さんのいらっしゃらない夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者がすべてを相続できるようになるわけではありません。

亡くなった方の親が健在であれば親が、両親とも亡くなっている場合には、亡くなった方のきょうだいもしくは甥姪が相続人として手続きに関わってくることになります。

相続人全員で遺産の分け方について話し合い、それがまとまってはじめて、遺産を自由に使えるようになるのです。この話し合いを遺産分割協議と言います。

ところが、遺産分割協議がまとまらない・できない場合があるのです。

こうなってしまう主な理由は次の二つです。

①相続人が協力してくれない

②相続人が認知症になっている

相続人が協力してくれないという①のケースは、手紙を出しても怪しがって返事をしてくれない場合も含みますが、困るのは法定相続分や、それ以上の財産を欲しがられてしまった場合です。

遺言がない時には、よほどの事情がない限り、相続人の有する法定相続分をひっくり返すことはできません。

なので、仮に裁判所まで行くことになったら、法定相続分は渡すことになるでしょう。

次に、②の相続人が認知症になってしまっている場合ですが、話ができなければ当然遺産の分け方についても決められません。

そのため、本人の代わりに成年後見人という役割の人を選び、遺産分割協議をしてもらわなければなりません。

成年後見人が選ばれた場合に大変なのは、法定相続分の遺産を、なるべく管理しやすい財産で相続させることを家庭裁判所から求められることです。

例えば、使っていない空き地があったとしても、その空き地でなく現金をわたさなければなりません。

さらに大変なのは、現行の制度では成年後見人は、本人が亡くなるまで終了できないということです。

相続の手続きが終わっても、後見は終わらないため手間とコストがかかるのです。

遺産分割協議ができない・まとまらないときのコスト

他の相続人が意思表示はできても話がまとまらず、弁護士を立てることになった場合には、着手金や報酬を支払う必要がありますが、仮に1000万円の遺産を受け取ることになったときには、トータルで100万円程度は費用がかかります。

なお、家庭裁判所で調停を始めた場合、通常1年程度、長いと2年から3年程度の期間を要します。

成年後見人が必要となった場合、次の費用がかかります。さらに、それに加えて法定相続分の資産を、原則として現金で相続させなければなりません。

 後見人選任申立 10万円~

 後見人報酬   24万円~@年(財産の額により変動、被後見人の死亡まで継続)

また、遺産はいらないと言っていた相続人も、被後見人が受け取っているのを見て、「それならやっぱり自分も欲しい」と意見をひるがえすこともあります。

相続対策の要否はリスクとコストを天秤にかけて考えるべき

もちろん、相続人全員が健康で、なおかつ協力的であれば、遺言書がなくても手続きはスムーズに進むでしょう。

ただし、相続人のうちたった一人でも認知症になってしまっていれば、その前提は崩れてしまうのです。

遺言書を作っておくことは、言うなれば保険です。結果的にはなくても大丈夫だった、ということになるかもしれませんが、不幸にもそうではなかった場合には、遺言を書いてくれた家族に感謝することになります。

特にお子さんのいらっしゃらないご夫婦の場合、遺言書の効果は絶大です。

亡くなった方の親が健在でも遺留分は遺産全体の6分の1で済みますし、両親とも亡くなっている場合には遺留分は問題とならず、夫婦間ですべての財産を相続させることができます。

遺言書の作成を当事務所にご依頼いただいた場合、報酬と公証役場の費用を合わせてお一人当たり20万円~30万円程度になります(ご資産の多寡によって変動します)が、何かあったときにかかる金銭的コストと比較すれば、かなり低く抑えられるはずです。

まとめ

今回は、

・おふたりさまの相続にはリスクがある

・リスクが現実化した場合には相続対策以上のコストがかかる

・相続対策はトラブル発生に備えた保険である

という内容で相続対策の要否についてご説明させていただきました。

当事務所にご相談いただければ、個々の家庭の事情に即したアドバイスをさせていただきます。

迷っていらっしゃる方は、ぜひともご相談ください。

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