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司法書士が解説する「遺産の分け方」基本のき
遺産の分け方は大きく二つ、「遺言」と「遺産分割協議」
相続登記のご相談を受けていると、「遺産の分け方について教えてほしい」というご要望を頻繁にいただきます。
相続は一生のうちでも何度も遭遇することではありませんので、遺産の分け方について馴染みの薄いのは当たり前ですよね。
法律の手続となると一見難しそうですが、遺産の分け方はいくつもあるわけではなく、大きく分ければ二つだけですので、これだけ覚えていただいていれば十分です。
まず一つ目は、「遺言」によるものです。
これは、亡くなった方が生前に作成しておいた遺言書のとおりに遺産を配分する方法です。
もう一つは、「遺産分割協議」によるものです。
これは、相続人の話し合いによって遺産の分け方を決める方法です。
今回は、この二つの遺産の分け方について解説してみたいと思います。
遺産の分け方の優先順位
遺産の分け方には、「遺言」によるものと「遺産分割協議」によるものがありますが、遺言書がある場合には、常に遺言書が優先されます。
遺言書があれば遺言書に従って遺産が配分されるため、遺産分割協議をする余地は、基本的にはありません。
時々、遺言書があっても遺産分割協議ができると勘違いされている方もいらっしゃいますが、遺言書があっても遺産分割をすることがあるのは次のケースのみです。
ケース① 遺言書の内容が遺産のすべてを網羅できていない
たとえば、自宅不動産と預金が遺産となるのに、預金の分け方しか指定されていないような場合には、不動産の分け方について分割協議をしなければなりません。
ケース② 相続人「全員」が遺言書の内容に不満がある
たとえば、相続人が亡くなった方の息子二人のみで、長男に不動産Aを、二男に不動産Bを相続させるとする遺言書があっても、長男が不動産Bを、二男が不動産Aを欲しかった場合には、両者の合意によって遺産分割協議をすることができます。
ただし、不満を述べているのが相続人の一部のみであったり、遺言執行者が遺産分割協議をすることに反対しているときには遺産分割協議をすることはできません。
遺言の効力
ドラマや漫画で、死に直面したキャラクターに向かって「最後に言い残すことはあるか?」などと尋ねるシーンを見たことはありませんか?
このようなやり取りが古今東西さまざまなフィクションで登場していることからも、亡くなった人の言葉を尊重しようという考えは、人類にとって普遍的なものなのでしょう。
遺言というのはまさに「最後に言い残したいこと」であるため、遺言書には強力な法的効果が認められており、少なくとも一旦は遺言書のとおりになります。
たとえば、「全財産を長男に相続させる」という内容の遺言書があった場合、すべての遺産は長男のものになります。
この遺言によって遺留分を侵害されている相続人がいた場合には、侵害された遺留分を長男に対して請求することができますが、特定の財産を狙い撃ちで請求することはできず、金銭での補填が認められているのみです。
ですから、このようなケースで遺産の中に他の相続人が絶対に欲しいと思っている不動産があったとしても、その不動産を遺留分として請求することはできません。
遺産分割協議の自由度
これも勘違いされることが多いのですが、遺産分割協議の際に、法定相続割合を考慮しなければならないというルールは、基本的にはありません。
ですから、誰か一人がすべての遺産を相続するという内容であっても、他の相続人全員がそれで納得していれば問題ないのです。
ただし、分け方が自由であるといっても、相続人でない人物に相続させるという内容の遺産分割協議はできません。
また、債務の承継は誰がするのか、ということについては債権者の同意が必要です。
長男が財産をすべて相続し、二男が債務をすべて引き継いだ後に破産する、というようなインチキはできないというわけです。
なお、遺産分割協議がまとまらず、どうしても結論を出したいときには裁判所を利用することになります。
裁判所は法定相続割合を尊重しますので、裁判所まで行くことになってしまった場合には、余程の事情がない限り、最終的には法定相続割合で分けることになると思っていただいてよいでしょう。
まとめ
今回は遺産の分け方についてご紹介しました。
・遺産の分け方は「遺言」か「遺産分割協議」の二つ
・遺言があれば遺産分割協議はしない
・遺言書の効力は非常に強い
・遺産分割協議の内容は当事者次第で自由に決められる
というのがポイントです。
遺産の分け方についての個別具体的なご相談は、司法書士までご相談ください。
負動産を相続したくないあなたが国庫帰属制度の利用を急ぐべき3つの理由
相続土地国庫帰属制度の開始は歴史の転換点
令和5年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」ですが、この制度によってそれまでは不可能だった「不動産を捨てる」という行為が可能になりました(法務省作成のパンフレットでは「国に引き渡す」と表現していますが)。
日本では長いこと不動産というものは基本的に価値あるものとして扱われてきましたが、使われず放置されている不動産が増えてくると、そのような不動産は「負動産」などと呼ばれるようになりました。
ブラウン管テレビがデジタル放送への切り替えで使えなくなってしまったように、農地や山林も時代の変化とともに、その価値を失ってしまったのです。
日本の人口が減り続けている以上、今後不動産の需要が増加する見込みはなく、都市部とそれ以外の不動産の価格の差は広がっていく傾向にあることからも、これは仕方のないことです。
「国民から不動産を買い取る制度」ではなく「国民が手数料を払って不動産を引き取ってもらう制度」である国庫帰属制度の創設は、不動産には必ずしも財産的価値があるものではないということを国がはっきりと認めた、歴史の転換点と言えるでしょう。
親が負動産を持っているけれど、よくわからないから相続が始まってからゆっくり考えよう、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それは悪手です。
相続の後で、と言わずに親の代、祖父母の代で済ませておいてしまうのが理想的なのです。
今回は、相続土地国庫帰属制度を早めに済ませておくべき3つの理由についてご紹介いたします。
時間が経つと不動産が特定できなくなる
相続土地国庫帰属制度を利用しようとするときに最初に問題になるのは、該当する不動産がどこにあるのかを特定できないということです。
地番が分かれば場所を特定するための方法はいくつかあるのですが、それらはあくまでも書面上の話であり、現地に行けるかどうかは別の話です。
筆者も、調査依頼を受けた土地のおおよその場所を特定して山に登ってみたものの、結局たどり着けなかったことがあります。
そこは舗装された農道から1キロほど離れた山林だったのですが、登り口を探すのに30分かかり、1時間ほど登った先でリタイアして引き返すことになってしまいました。
長い間誰も通っていない山道には草木が生え、倒木が立ちふさがり、途中から道そのものがなくなってしまっていたのです。
雑種地や農地はまだ比較的分かりやすいですが、山林に関しては目印と呼べるものがないので、その場所に一度でも行ったことのある方でなければ場所は分からないでしょう。
また、農地や雑種地などは現地までたどり着けても、境界がどこなのか目印がないことが多く、判断がつきにくいという問題があります。
例えば、「あぜ道の東側の田んぼがうちの土地です」と言われても、よくよく確認しようとした時に、あぜ道の中心が境目なのか、あぜ道の端が境目なのかが分からなかったりするのです。
また、隣地の所有者と境界を確認しようにも、隣地の所有者も世代交代で詳細を把握できていなかったりするのです。
これらの事情から、現地の場所を知っている方がお元気なうちに手続きをするほうがよいのです。
負動産の押し付け合いを回避でき、相続税の節税もできる
農業や林業を営んでいない限り、農地や山林を所有することは負担でしかありません。
農地であれば近隣の農地に迷惑がかからないよう定期的な草刈りが必要ですし、山林も災害時に民家や道路に崩れてしまったら損害賠償を請求されてしまいます。
仮に今は借り手がいる場合でも、農業や林業の担い手は年々減少しており、いつ使ってもらえなくなってもおかしくないのです。
このため、遺産に農地や山林が含まれていると、遺産分割協議の際に相続人の間で押し付け合いになってしまいます。
あらかじめ国庫帰属していれば、相続人が負動産を相続しなくて済むため、このような押し付け合いは起こりません。
また、遺言書を書いておく場合でも、誰かに負動産を継がせることで、その相続人から恨まれるようなこともなくなります。
さらに付け加えると、相続発生前に国庫帰属を済ませておくと、相続税で有利になることもあります。
国庫帰属の審査が済んだ後、負担金を国に納めることによって不要な土地を引き取ってもらえるのですが、山林や農業振興地域内の農地は面積によって負担金の額が増えるため、総額が数百万円になることもざらにあります。
仮になにもせず相続が発生し、相続税を納めた場合、相続した土地と預貯金に対する税金を取られたうえ、さらに後からお金を払って負動産を処分する羽目になります。
先に国庫帰属を利用していれば、土地も預金も減った状態になるので、後から国庫帰属を利用する場合に比べて相続税も安くて済むのです。
放置するほどコストはかさむ
農地や雑種地を国庫帰属させるには、その土地を完全に更地にすることを要求されます。
木が生えていた場合には切るだけではなく、根を完全に抜かなければなりません(例外的に、敷地の隅で絶対邪魔にならない切り株であればお目こぼしをもらえることも、“なくはない”そうですが)。
定期的に草刈りをしていればよいのですが、放置されていると鳥や風によって運ばれた種から木が生えてしまうことがあります。
筆者も国庫帰属の申立てを予定している不動産の現地確認をした際、数年前まで水田だった土地に立派な木が生えているのに遭遇したことがありました。
こうなってしまうと、草刈りだけでなく木の伐採、抜根、搬出まで専門の業者に依頼しなければならないので、費用が大きく跳ね上がることになります。
また、こまめに手入れをするにしても、それが5年、10年と積み重なっていけば、その金額はばかになりません。
使わないでいる不動産に対しては、お金は出ていくばかりなのです。
まとめ
今回は、国庫帰属制度の利用を後回しにすると
・場所を知っている人がいなくなってしまう
・相続でもめやすくなる
・コストがかさむ
というデメリットがあることをご紹介しました。
まだ始まったばかりで歴史の浅い制度ですので、負動産について心配されていらっしゃる方は、司法書士をはじめとする専門家にご相談ください。
当事務所でもご相談を承っております。
相続に関する相談で失敗しないためのコツ
事前準備が相談の成否を分ける
令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、相続に関する相談の件数が増えています。
定期的に開催されている司法書士会や市区町村役場での無料相談会は予約でいっぱいですし、個々の司法書士事務所への相談、問い合わせも以前より増えています。
ところが、せっかく相談しに行っても、事前準備ができていなかったために時間が無駄になってしまうことがあります。
相談のために仕事を休んだり、遠くまで足を運んだのに満足のいく相談ができなかったらもったいないですよね?
そこで今回は、相続に関する相談をするときのコツをお教えします。
手ぶらで行っちゃダメ! 事前に用意すべきモノ
相続に関する相談で一番重要なのは、資産に関する資料を用意していただくことです。
例えば、「子どもが3人いるけれど長男に自宅不動産を相続させたい」という相談については、相談される方の金融資産と不動産、借入についての資料がないと、全くアドバイスのしようがありません。
相続に関する相談は、これからの関係者の人生をどうしたいか、そのために何をどうしたらよいかという相談に他なりませんが、そのためには財産の状況の確認が欠かせないのです。
将来に備えたい、という相談の際にご用意いただくべきモノ
・預金通帳
・有価証券に関する資料(証券会社の定期レポートなど)
・不動産の資料(固定資産税の請求明細、名寄帳など)
・借入に関する資料(返済予定表など)
すでに発生した相続に関する手続きの相談をしたいときにご用意いただくべきモノ
・亡くなられた方の預金通帳
・亡くなられた方の有価証券に関する資料
・亡くなられた方の所有されていた不動産の資料
・亡くなられた方の借入に関する資料
・亡くなられた方の戸籍(出生から死亡まで)
相談したいことの正しい伝え方
相談の予約をする際の、相談したいことの伝え方にもコツがあります。
役所などで開催される相談会では相談員の得手不得手もあったりしますので、例えば相続の相談だけれど後見人選任も必要なケースなどで、たまたま担当した相談員が後見事務について未経験だったりすると、適切なアドバイスが望めないケースもあります。
予約の時点で「どんな手続きを依頼したいか」(例:遺言書を書きたい、後見人をつけたい)ではなく、「最終的に目指したいのはどのような状態なのか」(例:自分たちの死後に障害のある子どもが困らないようにしたい)をお伝えいただくほうが、相談を受ける側も準備がしやすいので、相談をする側にとってもメリットがあります。
困っていることや気になっていることも予約の時点で伝えておくとよいでしょう。
相談までに親族間で話し合っておくこと
相談前に遺言書の書き方や家族信託のことなど、相談したいことについて予習してこられる方もいらっしゃいますが、特に必要はありません。
それよりも、可能な範囲で親族が相続後のライフプランについてどう考えているのかを共有していただくことをおすすめします。
例えば、子どもたちが将来、実家の不動産をどうしたいのか(住みたい、売りたい)だとか、県外に住んでいる子どもが地元に帰ってくるつもりがあるのか、といったことを相談前に確認していただいていると、遺言の作成についての相談でも遺産の分割についての相談でも方針を決めやすくなります。
まとめ
相続について相談するときには
①財産に関する資料を用意しておく
②予約の時点では最終的にどうしたいのかを伝える
③親族の意向を確認しておく
というのが相談を有益なものとするコツです。
大規模な相談会でも、個々の司法書士事務所でも、どちらで相談される際にも役に立つと思いますので、ぜひ参考になさってください。
当事務所でも、相続対策、老後の備えについての相談を承っております。
お気軽にご相談ください。
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