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司法書士が解説する「遺産の分け方」基本のき
遺産の分け方は大きく二つ、「遺言」と「遺産分割協議」
相続登記のご相談を受けていると、「遺産の分け方について教えてほしい」というご要望を頻繁にいただきます。
相続は一生のうちでも何度も遭遇することではありませんので、遺産の分け方について馴染みの薄いのは当たり前ですよね。
法律の手続となると一見難しそうですが、遺産の分け方はいくつもあるわけではなく、大きく分ければ二つだけですので、これだけ覚えていただいていれば十分です。
まず一つ目は、「遺言」によるものです。
これは、亡くなった方が生前に作成しておいた遺言書のとおりに遺産を配分する方法です。
もう一つは、「遺産分割協議」によるものです。
これは、相続人の話し合いによって遺産の分け方を決める方法です。
今回は、この二つの遺産の分け方について解説してみたいと思います。
遺産の分け方の優先順位
遺産の分け方には、「遺言」によるものと「遺産分割協議」によるものがありますが、遺言書がある場合には、常に遺言書が優先されます。
遺言書があれば遺言書に従って遺産が配分されるため、遺産分割協議をする余地は、基本的にはありません。
時々、遺言書があっても遺産分割協議ができると勘違いされている方もいらっしゃいますが、遺言書があっても遺産分割をすることがあるのは次のケースのみです。
ケース① 遺言書の内容が遺産のすべてを網羅できていない
たとえば、自宅不動産と預金が遺産となるのに、預金の分け方しか指定されていないような場合には、不動産の分け方について分割協議をしなければなりません。
ケース② 相続人「全員」が遺言書の内容に不満がある
たとえば、相続人が亡くなった方の息子二人のみで、長男に不動産Aを、二男に不動産Bを相続させるとする遺言書があっても、長男が不動産Bを、二男が不動産Aを欲しかった場合には、両者の合意によって遺産分割協議をすることができます。
ただし、不満を述べているのが相続人の一部のみであったり、遺言執行者が遺産分割協議をすることに反対しているときには遺産分割協議をすることはできません。
遺言の効力
ドラマや漫画で、死に直面したキャラクターに向かって「最後に言い残すことはあるか?」などと尋ねるシーンを見たことはありませんか?
このようなやり取りが古今東西さまざまなフィクションで登場していることからも、亡くなった人の言葉を尊重しようという考えは、人類にとって普遍的なものなのでしょう。
遺言というのはまさに「最後に言い残したいこと」であるため、遺言書には強力な法的効果が認められており、少なくとも一旦は遺言書のとおりになります。
たとえば、「全財産を長男に相続させる」という内容の遺言書があった場合、すべての遺産は長男のものになります。
この遺言によって遺留分を侵害されている相続人がいた場合には、侵害された遺留分を長男に対して請求することができますが、特定の財産を狙い撃ちで請求することはできず、金銭での補填が認められているのみです。
ですから、このようなケースで遺産の中に他の相続人が絶対に欲しいと思っている不動産があったとしても、その不動産を遺留分として請求することはできません。
遺産分割協議の自由度
これも勘違いされることが多いのですが、遺産分割協議の際に、法定相続割合を考慮しなければならないというルールは、基本的にはありません。
ですから、誰か一人がすべての遺産を相続するという内容であっても、他の相続人全員がそれで納得していれば問題ないのです。
ただし、分け方が自由であるといっても、相続人でない人物に相続させるという内容の遺産分割協議はできません。
また、債務の承継は誰がするのか、ということについては債権者の同意が必要です。
長男が財産をすべて相続し、二男が債務をすべて引き継いだ後に破産する、というようなインチキはできないというわけです。
なお、遺産分割協議がまとまらず、どうしても結論を出したいときには裁判所を利用することになります。
裁判所は法定相続割合を尊重しますので、裁判所まで行くことになってしまった場合には、余程の事情がない限り、最終的には法定相続割合で分けることになると思っていただいてよいでしょう。
まとめ
今回は遺産の分け方についてご紹介しました。
・遺産の分け方は「遺言」か「遺産分割協議」の二つ
・遺言があれば遺産分割協議はしない
・遺言書の効力は非常に強い
・遺産分割協議の内容は当事者次第で自由に決められる
というのがポイントです。
遺産の分け方についての個別具体的なご相談は、司法書士までご相談ください。
負動産を相続したくないあなたが国庫帰属制度の利用を急ぐべき3つの理由
相続土地国庫帰属制度の開始は歴史の転換点
令和5年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」ですが、この制度によってそれまでは不可能だった「不動産を捨てる」という行為が可能になりました(法務省作成のパンフレットでは「国に引き渡す」と表現していますが)。
日本では長いこと不動産というものは基本的に価値あるものとして扱われてきましたが、使われず放置されている不動産が増えてくると、そのような不動産は「負動産」などと呼ばれるようになりました。
ブラウン管テレビがデジタル放送への切り替えで使えなくなってしまったように、農地や山林も時代の変化とともに、その価値を失ってしまったのです。
日本の人口が減り続けている以上、今後不動産の需要が増加する見込みはなく、都市部とそれ以外の不動産の価格の差は広がっていく傾向にあることからも、これは仕方のないことです。
「国民から不動産を買い取る制度」ではなく「国民が手数料を払って不動産を引き取ってもらう制度」である国庫帰属制度の創設は、不動産には必ずしも財産的価値があるものではないということを国がはっきりと認めた、歴史の転換点と言えるでしょう。
親が負動産を持っているけれど、よくわからないから相続が始まってからゆっくり考えよう、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それは悪手です。
相続の後で、と言わずに親の代、祖父母の代で済ませておいてしまうのが理想的なのです。
今回は、相続土地国庫帰属制度を早めに済ませておくべき3つの理由についてご紹介いたします。
時間が経つと不動産が特定できなくなる
相続土地国庫帰属制度を利用しようとするときに最初に問題になるのは、該当する不動産がどこにあるのかを特定できないということです。
地番が分かれば場所を特定するための方法はいくつかあるのですが、それらはあくまでも書面上の話であり、現地に行けるかどうかは別の話です。
筆者も、調査依頼を受けた土地のおおよその場所を特定して山に登ってみたものの、結局たどり着けなかったことがあります。
そこは舗装された農道から1キロほど離れた山林だったのですが、登り口を探すのに30分かかり、1時間ほど登った先でリタイアして引き返すことになってしまいました。
長い間誰も通っていない山道には草木が生え、倒木が立ちふさがり、途中から道そのものがなくなってしまっていたのです。
雑種地や農地はまだ比較的分かりやすいですが、山林に関しては目印と呼べるものがないので、その場所に一度でも行ったことのある方でなければ場所は分からないでしょう。
また、農地や雑種地などは現地までたどり着けても、境界がどこなのか目印がないことが多く、判断がつきにくいという問題があります。
例えば、「あぜ道の東側の田んぼがうちの土地です」と言われても、よくよく確認しようとした時に、あぜ道の中心が境目なのか、あぜ道の端が境目なのかが分からなかったりするのです。
また、隣地の所有者と境界を確認しようにも、隣地の所有者も世代交代で詳細を把握できていなかったりするのです。
これらの事情から、現地の場所を知っている方がお元気なうちに手続きをするほうがよいのです。
負動産の押し付け合いを回避でき、相続税の節税もできる
農業や林業を営んでいない限り、農地や山林を所有することは負担でしかありません。
農地であれば近隣の農地に迷惑がかからないよう定期的な草刈りが必要ですし、山林も災害時に民家や道路に崩れてしまったら損害賠償を請求されてしまいます。
仮に今は借り手がいる場合でも、農業や林業の担い手は年々減少しており、いつ使ってもらえなくなってもおかしくないのです。
このため、遺産に農地や山林が含まれていると、遺産分割協議の際に相続人の間で押し付け合いになってしまいます。
あらかじめ国庫帰属していれば、相続人が負動産を相続しなくて済むため、このような押し付け合いは起こりません。
また、遺言書を書いておく場合でも、誰かに負動産を継がせることで、その相続人から恨まれるようなこともなくなります。
さらに付け加えると、相続発生前に国庫帰属を済ませておくと、相続税で有利になることもあります。
国庫帰属の審査が済んだ後、負担金を国に納めることによって不要な土地を引き取ってもらえるのですが、山林や農業振興地域内の農地は面積によって負担金の額が増えるため、総額が数百万円になることもざらにあります。
仮になにもせず相続が発生し、相続税を納めた場合、相続した土地と預貯金に対する税金を取られたうえ、さらに後からお金を払って負動産を処分する羽目になります。
先に国庫帰属を利用していれば、土地も預金も減った状態になるので、後から国庫帰属を利用する場合に比べて相続税も安くて済むのです。
放置するほどコストはかさむ
農地や雑種地を国庫帰属させるには、その土地を完全に更地にすることを要求されます。
木が生えていた場合には切るだけではなく、根を完全に抜かなければなりません(例外的に、敷地の隅で絶対邪魔にならない切り株であればお目こぼしをもらえることも、“なくはない”そうですが)。
定期的に草刈りをしていればよいのですが、放置されていると鳥や風によって運ばれた種から木が生えてしまうことがあります。
筆者も国庫帰属の申立てを予定している不動産の現地確認をした際、数年前まで水田だった土地に立派な木が生えているのに遭遇したことがありました。
こうなってしまうと、草刈りだけでなく木の伐採、抜根、搬出まで専門の業者に依頼しなければならないので、費用が大きく跳ね上がることになります。
また、こまめに手入れをするにしても、それが5年、10年と積み重なっていけば、その金額はばかになりません。
使わないでいる不動産に対しては、お金は出ていくばかりなのです。
まとめ
今回は、国庫帰属制度の利用を後回しにすると
・場所を知っている人がいなくなってしまう
・相続でもめやすくなる
・コストがかさむ
というデメリットがあることをご紹介しました。
まだ始まったばかりで歴史の浅い制度ですので、負動産について心配されていらっしゃる方は、司法書士をはじめとする専門家にご相談ください。
当事務所でもご相談を承っております。
タワマン買ったら遺言を書こう!おふたりさまのための財産防衛術
遺言を書くのは早いほうが良いけれど、不動産を買ったら特に急ぐべき
遺言書はいつになったら書けばよいか、という質問をいただくことが多いのですが、これに対する回答はひとつ、「早いに越したことはありません。」です。
特にいわゆるおふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)は、遺言の有効性が高いため、万が一のことを考えるなら少しでも早く作っておくのが正解です。
とはいえ、お二人とも元気なうちは遺言を書いておこうという気分にはなりにくいのも仕方ないことではあるでしょう。
そういう訳で、遺言を書かれる方は一部を除いて70代以上の方が多いのですが、おふたりさまが不動産を買った時だけは、本当にすぐに遺言書を書いていただきたいのです。
今回は、不動産を購入したときに陥りやすい罠と、その回避方法についてご案内いたします。
死亡後の返済には備えているのに死亡後の相続手続きには無防備という状態
金融機関で住宅ローンを組む場合、通常は団体信用生命保険(通称:団信)に加入します。
これは、返済中に借主が死亡してしまった場合にローンの残額が保険によって支払い不要、チャラになるというものです。
団信は半強制とはいえ、ほとんどの方が納得して加入しています。
借主は家計を支えていることが多いですから、その方が死亡してしまったら返済が困難になってしまうのは容易に想像できますので、これは当然といえるでしょう。
筆者も自宅を購入する際にはお金を借りましたが、土地を買ってから家を建てたせいで家が完成するまで団信が有効にならず、家の引き渡しまでは自動車で出かけるときにも気が気ではありませんでした。
しかし、団信の重要性は理解していても、債務者が死亡してしまった場合の相続手続きに備えておくことの重要性にまで気が付いていらっしゃる方はまだまだ少数派なのです。
団信によって相続財産が増加することで生じる相続リスク
通常、ローンの契約時に半強制的に加入させられるますので、団信に未加入ということはまずないのですが、実はこれが逆に不幸を呼んでしまう事態がありうるのです。
それは、団信があると財産が増えてしまうという、一見良いことのように見える現象によって引き起こされるのですが、「他の相続人から相続分を請求されてしまう」ことがあるのです。
住宅ローンの返済方法は元利均等なので、はじめのうちは元金がなかなか減りません。
一方、不動産は買った瞬間に値が下がりますので、住宅購入時の頭金が多額であれば別ですが、オーバーローン(借入が不動産の価格を上回っている状態)である期間が長くなるのです。
このため、不動産をローンで買うと、しばらくは預貯金と合わせても資産はマイナスか、ゼロに近い状態になるでしょう(もちろんそうではない方もいらっしゃるでしょうが)。
仮に団信がない状態で、ローンが始まって数年以内に相続が開始したら、遺産の総額はマイナスになりますので、他の相続人から遺産をよこせと要求されることはないでしょう。
しかし、団信があると住宅ローンが完済されてしまうため、結果として遺産の総額が一気に増えるのです。
しかも、遺産の内訳は不動産が大きな割合を占めることになります。
そうなると、せっかく配偶者から相続したお金のほとんどを他の相続人に渡す羽目になってしまったり、ひどい時には相続したお金に自分の預貯金を上乗せして渡す必要すら有りうるのです。
住宅ローンを払い続けるよりは安上がりなのかもしれませんが、こうなりたくはないですよね。
配偶者に全財産を相続させるという内容の遺言を書こう
おふたりさまが相続トラブルを避けるためにもっとも有効な方法は、配偶者に全財産を相続させるという内容の遺言書を書いておくことです。
配偶者を亡くした悲しみの中、遺産の処理で悩むのは大きな負担になりますし、トラブルが生じると預金を解約するまでの時間も長くなってしまいます。
きょうだいには遺留分がありませんので、遺言さえあれば配偶者は遺言書の内容のとおりに相続ができますし、仮に亡くなった方の親がご存命であり、遺留分の請求をされてしまったとしても、渡す財産は遺産分割協議をするときの半分で済みます。
まとめ
今回は、不動産をローンで買った時に起こりうる相続リスクについてご紹介しました。
・団信は返済についての心配は解消してくれるが、相続リスクは増やしてしまうことがある
・相続リスクは遺言書を書いておくことで軽減できる
年配の方には公正証書での遺言作成を強くお勧めしていますが、若いうちに作成されるのであれば、予算に応じて自筆証書遺言を法務局に預ける方法もありです。
夫婦で築いた財産を守るため、不動産を買われたときには遺言書の作成を検討してみてください。
市町村への遺贈寄付はなぜ増えないのか
寄付が欲しい市町村と市町村を選ばない遺言者
7月31日に日本経済新聞が、遺贈寄付に関して磐田市と静岡銀行、浜松いわた信金が協定を結んだというニュースを報じていました。
遺贈寄付の件数を伸ばしたい市町村が金融機関との間で遺贈寄付に関する協定を結んだというニュースが時々報じられていることからも、まだまだ遺贈寄付の件数は少ないのでしょう。
磐田市も、これまではせいぜい年に1件あるかないかという状況だったそうです。
とはいえ、市町村に遺贈寄付をしたいと考えている方が全然いないという訳ではありません。
実は筆者の経験上、遺言の作成について相談をうけているときに寄付先として市町村を候補に挙げられる方はいらっしゃったのですが、最終的には候補から外されてしまうことがほとんどだったのです。
つまり、遺言の内容を考えているうちに市町村から他の団体へと寄付したい先が変わってしまっていたということです。
それはいったいなぜなのか。
今回は、いつもと少し趣向を変えて、遺贈先に選ばれやすい先は、どんな理由で選ばれているのかを解説していきます。
遺言書を作成したいけれど、どこに寄付をしたらよいか分からないという一般の方にも参考にしていただける記事だと思いますので、ぜひご覧ください。
寄付の使いみちがはっきりしている団体は選ばれやすい
遺言の作成を検討されている方は、ごくたまーに、40代から50代くらいの方もいらっしゃるのですが、大多数は70代以上です。
そういったご年配の方々が、ご自分がこれまでに築き上げてこられたご資産を誰に託そうかと考えたとき、長い人生において大事にし続けてこられたもの、感謝している相手、共感している対象を優先するのは当然のことでしょう。
具体的な団体を指名される場合には、付き合いの長かったお寺だとか、お世話になった医療法人だとかを選ばれることが多いです。
一方、ペットを飼っているので動物愛護関係にお金を役立ててほしいとか、自分たちには子どもがいなかったけれど、親を亡くした子どもたちのためにお金を使ってほしいとご希望される方は、そういった団体があったらおしえてほしい、とおっしゃいます。
冒頭にご紹介した磐田市は、遺贈寄付の際に寄付金の使途を指定できるようですが、市町村によってはそうでないところもあります。
これは、遺贈はいつ受けられるのか予想しようがないのと、寄付のあったときだけ予算を増やすわけにもいかないことから、仕方のないことでもあるのですが・・・
そうすると、自然と特定の目的のために活動している団体が寄付先として選ばれることになるわけです。
不動産を引き取ってくれる団体は選ばれやすい
遺贈寄付を検討されている方の多くは、いわゆるおひとりさま、おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)であることが多いのですが、そういった方々の悩みとして、「死後に自宅の処分をどうしたらよいのか」という問題があります。
この点につき、いくつかの公益団体は不動産の遺贈も引き受けられることをアピールされています。
私たちが遺言作成のご相談をいただく際、自宅不動産の処分について心配されていらっしゃる方に対しては、不動産もまとめて遺贈できる先として、そのような団体の紹介を優先することになります。
相談しやすい窓口の不在
ここまでは市町村に寄付をしようと考えていらっしゃった方の気が変わってしまう原因をご紹介しましたが、市町村に対して遺贈寄付の相談をしにくい原因の一つとなっているであろう事象をご紹介いたします。
当事務所で将来的に遺贈寄付をしたいというお客様から相談をいただいた際には、寄付を募集していることがどう見てもあきらかである団体を除いて、司法書士から寄付の受け入れ可否についてあらかじめ問い合わせをするようにしています。
依頼をいただいているお客様は、「いつ頃、いくらくらいの寄付になるか分からないので名前を伏せて問い合わせたい」と考えていらっしゃる方が多いからです。
このような問いあわせをすると、遺贈寄付を検討している誰なのかとしつこく尋ねられることもありますし、とんでもない話なのですが、遺贈の希望者を特定して生前に寄付をさせようと目論んでいるような口調の団体も・・・あります。
私たち専門家は寄付先の選定に関しては中立の立場ですが、遺贈に関して遺贈相手の開設した相談窓口には直接話をしにくいというのは当然のことといえるでしょう。
餅は餅屋、相続は相続の専門家に相談すべき
たとえば、ある飲料メーカーが新製品のテレビCMを作りたいと思った時、相談すべき相手はテレビ局だけではなく広告代理店も含まれますよね?
市町村が遺贈寄付に関して相談しようと考えたときも、金融機関だけではなく、そこと提携して実際に遺言を作成している信託会社とも相談すべきなのです。
実際、寄付を多く集めることができている慈善団体は信託会社へのアプローチも怠っていません。
筆者も信託会社に在籍していた際には、いくつかの慈善団体のPRを拝聴したことがありますし、そこを遺贈先としてお客様にご紹介したこともあります。
また、おひとりさまやおふたりさまは、亡くなった後の自宅や施設の後片付け、各種手続きの代行についても関心をお持ちであることが多いのですが、これらも信託会社と連携することで対応できるため、遺贈寄付と信託会社は相性がいいのです。
ですから、遺贈寄付に関しては、金融機関だけではなく、その提携先である士業事務所の運営する信託会社にもコンタクトを取り、三者で連携することが重要なのです。
まとめ
今回は、市町村に対する遺贈寄付が増えないことに関連し、
・特定の目的のために活動している団体は寄付先として選ばれやすい
・不動産を引き取ってくれる団体は寄付先として選ばれやすい
・遺贈する相手には相談しにくい
・遺贈寄付を増やしたいときには金融機関と信託会社に相談すべき
という内容についてお話させていただきました。
当事務所では一般のお客様からのご相談だけでなく、金融機関の本部で相続業務の推進に携わっていた経験を活かし、遺贈寄付を増やしたい市町村や、相続関連業務を増やしていきたいという金融機関からのご相談にも対応できます。
お気軽にご相談ください。
金銭的損得から考えるおふたりさまの遺言書の要否
遺言作成にお金をかけるのは無駄?
遺言の作成についてのご相談をお受けしている際、お客様が気にされることの上位に費用の問題があります。
確かに司法書士に依頼をするとそれなりの報酬をお支払いいただくことになりますし、ご夫婦で作成されれば単純にほぼ倍のコストがかかります。
そうなると、わざわざ現時点でお金をかけなくても、実際に相続が発生したときにどうすればいいか考えればいいや、という方向に気持ちが傾きがちです。
ですが、相続に関することは、相続が始まってしまった後ではどうにもならないことばかりなので、対策するなら生前に、なおかつ元気なうちにやっておくべきです。
今回は、遺言を作っておくことの損得を、金銭面から考えてみたいと思います。
おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)の相続リスク
ときどき勘違いしていらっしゃる方もおられるのですが、お子さんのいらっしゃらない夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者がすべてを相続できるようになるわけではありません。
亡くなった方の親が健在であれば親が、両親とも亡くなっている場合には、亡くなった方のきょうだいもしくは甥姪が相続人として手続きに関わってくることになります。
相続人全員で遺産の分け方について話し合い、それがまとまってはじめて、遺産を自由に使えるようになるのです。この話し合いを遺産分割協議と言います。
ところが、遺産分割協議がまとまらない・できない場合があるのです。
こうなってしまう主な理由は次の二つです。
①相続人が協力してくれない
②相続人が認知症になっている
相続人が協力してくれないという①のケースは、手紙を出しても怪しがって返事をしてくれない場合も含みますが、困るのは法定相続分や、それ以上の財産を欲しがられてしまった場合です。
遺言がない時には、よほどの事情がない限り、相続人の有する法定相続分をひっくり返すことはできません。
なので、仮に裁判所まで行くことになったら、法定相続分は渡すことになるでしょう。
次に、②の相続人が認知症になってしまっている場合ですが、話ができなければ当然遺産の分け方についても決められません。
そのため、本人の代わりに成年後見人という役割の人を選び、遺産分割協議をしてもらわなければなりません。
成年後見人が選ばれた場合に大変なのは、法定相続分の遺産を、なるべく管理しやすい財産で相続させることを家庭裁判所から求められることです。
例えば、使っていない空き地があったとしても、その空き地でなく現金をわたさなければなりません。
さらに大変なのは、現行の制度では成年後見人は、本人が亡くなるまで終了できないということです。
相続の手続きが終わっても、後見は終わらないため手間とコストがかかるのです。
遺産分割協議ができない・まとまらないときのコスト
他の相続人が意思表示はできても話がまとまらず、弁護士を立てることになった場合には、着手金や報酬を支払う必要がありますが、仮に1000万円の遺産を受け取ることになったときには、トータルで100万円程度は費用がかかります。
なお、家庭裁判所で調停を始めた場合、通常1年程度、長いと2年から3年程度の期間を要します。
成年後見人が必要となった場合、次の費用がかかります。さらに、それに加えて法定相続分の資産を、原則として現金で相続させなければなりません。
後見人選任申立 10万円~
後見人報酬 24万円~@年(財産の額により変動、被後見人の死亡まで継続)
また、遺産はいらないと言っていた相続人も、被後見人が受け取っているのを見て、「それならやっぱり自分も欲しい」と意見をひるがえすこともあります。
相続対策の要否はリスクとコストを天秤にかけて考えるべき
もちろん、相続人全員が健康で、なおかつ協力的であれば、遺言書がなくても手続きはスムーズに進むでしょう。
ただし、相続人のうちたった一人でも認知症になってしまっていれば、その前提は崩れてしまうのです。
遺言書を作っておくことは、言うなれば保険です。結果的にはなくても大丈夫だった、ということになるかもしれませんが、不幸にもそうではなかった場合には、遺言を書いてくれた家族に感謝することになります。
特にお子さんのいらっしゃらないご夫婦の場合、遺言書の効果は絶大です。
亡くなった方の親が健在でも遺留分は遺産全体の6分の1で済みますし、両親とも亡くなっている場合には遺留分は問題とならず、夫婦間ですべての財産を相続させることができます。
遺言書の作成を当事務所にご依頼いただいた場合、報酬と公証役場の費用を合わせてお一人当たり20万円~30万円程度になります(ご資産の多寡によって変動します)が、何かあったときにかかる金銭的コストと比較すれば、かなり低く抑えられるはずです。
まとめ
今回は、
・おふたりさまの相続にはリスクがある
・リスクが現実化した場合には相続対策以上のコストがかかる
・相続対策はトラブル発生に備えた保険である
という内容で相続対策の要否についてご説明させていただきました。
当事務所にご相談いただければ、個々の家庭の事情に即したアドバイスをさせていただきます。
迷っていらっしゃる方は、ぜひともご相談ください。
相続に関する相談で失敗しないためのコツ
事前準備が相談の成否を分ける
令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、相続に関する相談の件数が増えています。
定期的に開催されている司法書士会や市区町村役場での無料相談会は予約でいっぱいですし、個々の司法書士事務所への相談、問い合わせも以前より増えています。
ところが、せっかく相談しに行っても、事前準備ができていなかったために時間が無駄になってしまうことがあります。
相談のために仕事を休んだり、遠くまで足を運んだのに満足のいく相談ができなかったらもったいないですよね?
そこで今回は、相続に関する相談をするときのコツをお教えします。
手ぶらで行っちゃダメ! 事前に用意すべきモノ
相続に関する相談で一番重要なのは、資産に関する資料を用意していただくことです。
例えば、「子どもが3人いるけれど長男に自宅不動産を相続させたい」という相談については、相談される方の金融資産と不動産、借入についての資料がないと、全くアドバイスのしようがありません。
相続に関する相談は、これからの関係者の人生をどうしたいか、そのために何をどうしたらよいかという相談に他なりませんが、そのためには財産の状況の確認が欠かせないのです。
将来に備えたい、という相談の際にご用意いただくべきモノ
・預金通帳
・有価証券に関する資料(証券会社の定期レポートなど)
・不動産の資料(固定資産税の請求明細、名寄帳など)
・借入に関する資料(返済予定表など)
すでに発生した相続に関する手続きの相談をしたいときにご用意いただくべきモノ
・亡くなられた方の預金通帳
・亡くなられた方の有価証券に関する資料
・亡くなられた方の所有されていた不動産の資料
・亡くなられた方の借入に関する資料
・亡くなられた方の戸籍(出生から死亡まで)
相談したいことの正しい伝え方
相談の予約をする際の、相談したいことの伝え方にもコツがあります。
役所などで開催される相談会では相談員の得手不得手もあったりしますので、例えば相続の相談だけれど後見人選任も必要なケースなどで、たまたま担当した相談員が後見事務について未経験だったりすると、適切なアドバイスが望めないケースもあります。
予約の時点で「どんな手続きを依頼したいか」(例:遺言書を書きたい、後見人をつけたい)ではなく、「最終的に目指したいのはどのような状態なのか」(例:自分たちの死後に障害のある子どもが困らないようにしたい)をお伝えいただくほうが、相談を受ける側も準備がしやすいので、相談をする側にとってもメリットがあります。
困っていることや気になっていることも予約の時点で伝えておくとよいでしょう。
相談までに親族間で話し合っておくこと
相談前に遺言書の書き方や家族信託のことなど、相談したいことについて予習してこられる方もいらっしゃいますが、特に必要はありません。
それよりも、可能な範囲で親族が相続後のライフプランについてどう考えているのかを共有していただくことをおすすめします。
例えば、子どもたちが将来、実家の不動産をどうしたいのか(住みたい、売りたい)だとか、県外に住んでいる子どもが地元に帰ってくるつもりがあるのか、といったことを相談前に確認していただいていると、遺言の作成についての相談でも遺産の分割についての相談でも方針を決めやすくなります。
まとめ
相続について相談するときには
①財産に関する資料を用意しておく
②予約の時点では最終的にどうしたいのかを伝える
③親族の意向を確認しておく
というのが相談を有益なものとするコツです。
大規模な相談会でも、個々の司法書士事務所でも、どちらで相談される際にも役に立つと思いますので、ぜひ参考になさってください。
当事務所でも、相続対策、老後の備えについての相談を承っております。
お気軽にご相談ください。
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