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遺言作成テクニック応用編 「あえて」の遺留分無視
遺留分への配慮は大事だけれど・・・
前回のコラムで、遺言を作成する際には遺留分に配慮するのが大事であるというお話をしました。
配偶者、子(孫)、親(祖父母)には遺留分という権利があるため、安易に偏った内容の遺言を作成してしまうと、優遇したかった相手が逆に不利になってしまうことがあるのです。
ですから、遺言書を書く時には遺留分に注意しなくてはならず、筆者が相談をお受けするときにも遺留分については細心の注意を払っています。
ですが、世の中の多くのことに例外があるように、遺言にもまた例外があるのです。
場合によっては、遺留分への配慮が裏目に出てしまうことすらありますので、今回はその例外についてご紹介いたします。
遺留分を無視してでも遺産を渡さないほうが良い場合もある
相続人の中に行方の知れない人物がいた場合、その相続人の遺留分を考慮した遺言を作成すると、かえって面倒なことになってしまうことがあるのです。
連絡のつかない相続人が財産を取得することになっても、遺言執行者がその相続人にコンタクトをとることができなければ手続きをすることはできません。
遺言執行手続を完了させるためには、「不在者財産管理人」を選任し、相続させるべき財産を管理してもらわなければなりませんが、本人がいつ帰ってくるか分からず、失踪宣告がされたとしても取り消される可能性があるため安心できません。
このため、行方不明の相続人がいる場合には、その相続人には遺産を渡さない内容の遺言書を作成し、除籍期間(遺留分侵害額の請求が可能な期間)が経過してしまうのを待つ方が手続きが楽になるのです。
また、単に遺産を渡したくない相続人がおり、その相続人から遺留分侵害額を請求されるかどうか予測できないときには、通常であれば遺留分を考慮すべきです。
しかし、遺産の内容が現金若しくは現金化しやすい財産ばかりであるならば、相続人間の仲が悪くなることを覚悟のうえで遺産を受け取れない相続人がいるという遺言を作成するのはアリです。
遺留分を無視した遺言を作成した場合の注意点
遺産を渡さない相続人がいるときには、注意しておくべき点があります。
それは、遺留分侵害額相当の現金を用意しておくということです。
遺留分侵害額を請求されても十分に現金があるという理由で、相続人同士の仲違い覚悟で特定の相続人を極端に優遇した遺言を作成し、相続開始後に相続人全員に遺言と財産目録を開示した場合には、1年間請求されなければ遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。
なので、遺留分侵害額に相当する額のお金を1年間ストックしておけば
一方、行方の知れない相続人を手続きから事実上排除するために遺留分を無視した遺言書を作成した場合には、行方不明だった相続人がひょっこりと帰ってくる可能性に備えておかなければなりません。
具体的には、相続開始から10年間、遺留分侵害額を請求されても支払えるようにお金をストックしておくことになります。
まとめ
今回は遺言書を作成するときの鉄則、遺留分への配慮についての例外をご紹介しました。
・遺産を一切渡さないほうがよいケースがある
・遺産を渡さない場合には、一定期間遺留分侵害額の請求には備える必要がある
というのが今回の内容でした。
遺言の作成時には、気を付けるべきポイントが多数ありますので、ご心配であればお気軽にご相談ください。
嫌いな相続人がいるときは要注意!間違いがちな遺言書
嫌いな人に財産を渡したくないという動機の落とし穴
遺言書を書こうというきっかけは人それぞれです。
コロナ禍では、有名芸能人の訃報が報じられた後に、一時的に遺言書作成の相談が増えたことがあります。
筆者も数百件の遺言書作成に携わってきましたが、世話になった相続人に多く渡したいという動機による遺言がある一方で、仲が悪い相続人に財産を渡したくないという動機に基づいた遺言も一定数あります。
ところが、世話になった相手に少し多く渡したいという遺言と比べ、嫌いな相手に渡したくないという遺言は極端な内容になりがちです。
内容を考える前に司法書士や弁護士に相談してくれていればよいのですが、怒りに任せてご自分で作成された遺言書は、かえって他の相続人に迷惑をかけてしまうことがあるのです。
遺留分を考慮しないのは危険
嫌いな相続人がいる場合、やってしまいがちなのが、嫌いな相続人に一切の財産が渡らないという内容の遺言を書いてしまうことです。
このような遺言書の何が問題になるかというと、相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があるということです。
遺留分というのは、遺言の内容にかかわらず取得できる、相続人にのみ最低限認められる権利のことで、法定相続分の2分の1(親のみが相続人の場合、3分の1)と定められています。
遺留分が認められるのは配偶者、子ども、親のみであるため、相続人がきょうだいや甥姪だけであれば、遺留分を考慮する必要はありません。
ですが、遺留分を侵害してしまっている場合、多く貰いすぎてしまった相続人は、侵害された相続人に対して、「現金で一括して」補填をする必要が生じてしまうのです。
遺産が現金のみであれば遺産から支払えば済むので問題にはなりませんが、遺産に占める不動産の割合が多いと、相続した現金より多くの現金を遺留分侵害額として支払わなければならなくなるケースもあるのです。
ですから、遺言書を作成する際には、遺留分に配慮した内容としなければなりません。
あるご家族における遺言の失敗
田中さん(仮名)夫婦には長女、長男、二女という三人の子どもがいました。
長女と二女は県外へ嫁いでいったため、年老いた田中さん夫婦の面倒は、隣の市に住む長男が見てくれていました。
ところが、長女と二女は田中さんにお金を無心するとき以外は実家に近づこうともしませんでした。
そこで、田中さんは自分の財産をすべて長男に相続させる内容の遺言を書きました。
問題が発生したのは、田中さんが亡くなった後のことでした。
長男が田中さんの遺産を確認してみたところ、不動産の評価が2000万円、預貯金が400万円ほどだったのです。
長女と二女は長男に遺留分を請求したため、長男がそれぞれに対して支払わなければならない遺留分の侵害額は遺産総額2400万円の6分の1にあたる400万円でした。
実家の不動産は固定資産の評価上は2000万円でしたが、山間にあるため不便なうえ、お隣さんの土地を通らないと道路に出られないため、売れても二束三文の土地でした。
結局、長男は自分の貯えから遺留分を支払い、手元に残ったのは価値の低い不動産だけでした。
下手に遺言を書いてしまったせいで、かえって長男に迷惑がかかる結果となってしまったのです。
まとめ
今回は、相続人間で受け取る遺産に差をつける場合には、遺留分に配慮する必要があることをご紹介しました。
・配偶者、子(孫)、親(祖父母)には遺留分がある
・遺留分は現金で請求されてしまう
・「すべての財産を○○に相続させる」という遺言は危険
遺言書の内容によっては、厚遇したかった相手にとって酷な結果となってしまうおそれがありますので、作成の際には専門家に相談することをお勧めします(法務局も公証役場も細かなアドバイスまではしてくれません)。
当事務所でも遺言に関する相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
ゼロからの相続入門 相続で知っておくべきことってなに?
相続とは、ある人物が死亡することにより、その人物の一定範囲内の親族が、死亡した人の権利と義務を引き継ぐことです。
死亡と同時に相続の効力が発生しますので、一定期間内に家庭裁判所に対して相続放棄(最初から相続人でなかったことにする)の申し出をしない限り、相続人は自動的に権利と義務を承継したことになります。
相続する人の範囲は法律で決まっている
誰が相続人になるかということは、法律で定められています。
そのため、例えば子どもが生存しているのにその子ども(本人から見て孫)が相続人になることは、通常ではありません。
仮に相続発生後に孫に渡したい財産がある場合には、遺言書を作成しておかないと、孫が直接受け取ることはできないのです。
なお、遺言を作成し、特定の人物や団体に遺産を渡した場合でも、それは遺贈(遺言による贈与)であって、相続したということにはなりません。
権利と義務はセット
相続が発生すると、亡くなった方の権利と義務は相続人に移転します。
このとき、権利だけを引き継いで義務からは逃れるということはできません。
また、義務(借入金の返済)については、誰が引き継ぐかということは相続人だけでは決めることができず、貸主である金融機関等の同意が必要となります。
そうでないと、例えば長男がすべての財産を引き継ぎ、長女がすべての負債を引き継いだ後に破産して、長男と長女で財産を山分けする、というインチキができてしまうからです。
なお、仮に貸主が同意してくれたとしても、受け取る財産と負債のバランスによっては、相続税の申告で不利になることがありますので、債務も相続する場合には税理士に相談することを強くお勧めします。
相続開始前に相続を放棄することはできない
相続は、ある人物が死亡することによって開始されますので、相続の開始前に相続を放棄することはできません。
ですから、多額の借金があることが明らかである方が死亡することによって相続人になる可能性があったとしても、相続開始前にあらかじめ相続放棄をすることはできません。
なお、相続放棄をするためには相続が発生し、自分が相続人になったことを知ってから三か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりませんので注意してください。
期限のある相続手続きに注意
相続に関する手続きには、期限の定められている手続きがあります。
主なものとしては、
相続放棄:自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月以内
準確定申告:相続開始から4か月以内
相続税申告:相続開始から10か月以内
相続登記:不動産を相続によって取得したことを知ってから3年以内
いずれも期限を過ぎると手続きができなくなってしまったり、罰金を科されたりといった不利益がありますので注意が必要です。
まとめ
今回は、相続についての基本をご紹介しました。
・相続は、ある人物が死亡することによって始まる
・相続人の範囲は法律で決まっている
・プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続しなければならない
・期限の決まっている手続きに注意
いずれも基本的なことではあるのですが、何度も体験することではないのでご不明な点、ご不安なことがあればご相談ください。
その養子縁組、ちょっと待って!相続対策としての養子縁組に潜む落とし穴
相続対策について調べていくと、養子縁組を勧める記事にたどり着くことが多いようです。
筆者も相続対策についての相談を受ける際、養子縁組についての質問をいただくことが幾度となくありました。
ですが、安易な養子縁組は相続の際に問題を引き起こしてしまうこともあるのです。
今回は、相続対策としての養子縁組について解説をしてみたいと思います。
相続対策として養子縁組が行われる理由は大きく分けて2つある
筆者の経験上、養子縁組を検討されている方が興味を持たれている理由は、大きく分けて次の二つでした。
パターン① 遺言を作らずに遺産を渡したい
遺産を渡したい相手と養子縁組してしまえば、遺言書がなかったとしてもいくらかの財産は養子に渡ることになります。
パターン② 相続税を減らしたい
相続税は相続人の人数によって基礎控除(非課税枠)が変化しますが、養子縁組することで相続人の人数を増やし、基礎控除を大きくしようとすることを狙うものです。
養子縁組は、事情によっては上記の理由に対して有効となりえますが、この後で紹介するように、トラブルのもとになる可能性も大いにあります。
一度縁組してしまうと容易に離縁できない
養子縁組というのは、養親と養子がお互いに成人していれば、両者の合意によって成立します(養子が未成年の場合には保護者との合意)。
なので、当事者のどちらかが縁組をするつもりがなければ成立しないのですが、その逆もしかりなのです。
どういうことかと言いますと、一旦養子縁組をしてしまうと、その関係を解消するには、やはり両者の合意がなければならないのです。
上記のパターン①で、面倒を見てくれていた甥に遺産を渡すため、養子縁組をされた方がいらっしゃいましたが、その後甥と不仲になってしまったため、縁組を解消しようとしたところ、遺産を目当てに縁組の解消に応じてくれないというケースがありました。
縁組は両者の同意がなければ解消できないため、遺産を渡すのが目的であれば、養子縁組ではなく、一方的に内容を変更できる遺言を作成する方法を選ぶ方をおすすめします。
また、パターン②の事例では、同居していた息子の配偶者を相続税対策のために養子にしていたところ、のちに息子夫婦が離婚してしまったにもかかわらず、息子の元配偶者が離縁に応じてくれなかったということがありました。
節税のために養子縁組をするのであれば、縁組の有無に関係なく、いつかは財産が渡る予定の相手(例えば孫)を養子に選ぶのが無難です。
ただし、その場合でも他の相続人から不満が出ないように配慮する必要があるでしょう。
養子縁組は必ずしも相続税を軽減させるとは限らない
養子縁組によって相続人を増やし、相続税の基礎控除枠を広げることで相続税を軽減させようと考える方もいらっしゃいますが、先ほどの事例とは違う理由で裏目に出てしまうことがありますので注意が必要です。
養子縁組をした場合、実子がいれば一人分、実子がいなければ二人分まで基礎控除が増加します。
ところが、実子がいない場合というのが問題となりうるのです。
例えば、子どものいないご夫婦で、夫には他に5人のきょうだいがおり、きょうだいにはそれぞれ2人の子どもがいたとします。
夫が亡くなった場合、その時点のきょうだいの生死によりますが、妻を含めた相続人は6人から11人となります。
ところが、例えば甥姪のうちの一人を養子にしていた場合、夫が亡くなったときの相続人は妻と養子の二人だけになってしまうのです。
これは、パターン②だけでなく、パターン①であったとしても同じ結果となります。
養子縁組の前後で、相続人がどう変化するのかは慎重に検討しなければなりません。
まとめ
今回は、養子縁組にまつわる落とし穴について解説してみました。
相続対策として縁組を検討する場合には、
・遺産を渡すのが目的なら遺言のほうが望ましい
・節税目的の場合なら逆に基礎控除が減ってしまう可能性を考慮すべき
という点にご注意いただきたいと思います。
相続手続きで失敗しないための貸金庫利用法
災害対策や防犯目的のため、銀行の貸金庫を利用されている方は多いですが、使い方によっては相続手続の際に貸金庫がネックになってしまうことがあります。
場合によっては、貸金庫を使っていたために相続登記をはじめとする相続手続きががスムーズにできず、困ってしまうという事態もありえるのです。
今回は、相続手続きをスムーズに進めるためにはどうしたらよいかという観点から、貸金庫の利用方法についてご説明します。
貸金庫に入れてはいけないもの
貸金庫に大切なものをしまっておくというのはよいことですが、何でもかんでも貸金庫に入れておけばいいというものではありません。
逆に、大切なものであっても絶対に貸金庫に入れておかないでいただきたいものがあります。
それは、貸金庫を借りているご本人が書いた遺言書です。
金融機関は相続関連のトラブルを避けるため、貸金庫の契約者が亡くなった場合には、貸金庫の利用を停止します。
これは、相続人の誰かが金庫の中身を勝手に持ち出して、他の相続人からクレームが出ることを防ぐためです。
そのため、貸金庫に遺言書が入っていた場合には、相続人であっても容易には持ち出すことができず、他の相続人の同意が必要となるのです。
たとえば、子どものいない夫婦が相続手続きをスムーズにするため、お互いに遺言書を書いていたとしましょう。
自筆の遺言書に「すべての財産を妻である○○に相続させる」と書かれていることを妻が知っていたとしても、封がされていれば他人には中身は分かりません。
そうなると、貸金庫の中の遺言書を持ち出すためには、亡くなった夫のきょうだい全員の同意が必要となります。
このとき、夫のきょうだいに連絡のつかない人がいたり、認知症の人がいたりすると遺言書が持ち出せません。
遺言書が使えれば必要がなかったのに、貸金庫に入れていたせいで後見人や不在者財産管理人を選任しなければならなくなってしまうと、時間とお金が無駄にかかってしまいます。
夫が書いた遺言を妻名義の貸金庫に入れておく、というのなら問題ありませんが、貸金庫には相続手続きを進めるのに必要となるものは入れてはいけないのです。
貸金庫に入れる際には注意すべきもの
貸金庫に入れてもおいてもいいけれど、注意が必要となるものは、貴金属類です。
相続税の申告が必要な場合には貴金属の価格を評価しなければなりませんし、遺言がない場合には貴金属類も遺産分割協議の対象になりますが、そもそも評価が分からなければ遺産分割協議ができませんよね。
でも、貸金庫に入ったままでは鑑定・評価ができないので困ってしまうのです。
金のインゴットや高価な宝石類など、資産価値の高いものを貸金庫に入れておく場合には、あらかじめ遺言書で渡す相手を決めておくほうがスムーズです。
貸金庫に入れても問題ないもの
所有者が亡くなった後には使われないものについては、貸金庫に入っていても差し支えありません。
例えば、実印や銀行印については、生前には重要なものですが、所有者の相続が開始した後には使われることがないため、貸金庫にしまわれっぱなしでも問題ありません。
不動産の権利書は、相続人が相続する場合には相続登記の際に使用しません。
遺言によって相続人以外の誰かに遺贈することになっている場合には登記申請の際に使うこともありますが、なくても登記手続きは可能であるため、貸金庫に入ったままでも大丈夫です。
また、預金通帳についても口座の所有者の相続手続きには不要です。
一部の金融機関では、相続による解約の際にも通帳の提出を求められることがありますが、再発行(多少の手数料はかかりますが)すればよいので、貸金庫に預けたままでも手続きをすることは可能です。
生命保険の証書については貸金庫に入れてもいいですが、受取人が保険の存在を把握できていないと受け取りが遅くなってしまいます。
証書は貸金庫に入れていたとしても、保険金の受取人になっている人が保険の内容を把握できるように準備(どこの保険会社と契約しているか伝えておく、証書のコピーを渡しておくなど)しておくのが良いでしょう。
まとめ
貸金庫を利用する場合には、
・貸金庫の契約者が作成した遺言書は絶対に入れてはだめ
・すぐに持ち出せないと困るものは入れる場合にはよく考えて
・契約している保険会社や利用している金融機関は相続人が分かるように準備しておく
というポイントを押さえておけば、相続の際の困りごとは相当軽減できるはずです。
貸金庫を利用中の方、これからの利用を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
そのままマネしちゃ駄目!ドラマ“虎に翼”のあの遺言
こんにちは。静岡で相続専門の司法書士事務所をやっている竹下と申します。
今回は巷で話題のドラマ、“虎に翼”について書いております。
マニア目線で見るフィクションの中の小道具
マニアというのは厄介なものでして、自分が興味を持っているものがドラマや映画や漫画に出てくると、ついついじっくり見てしまうのですが、可愛さ余ってなんとやらで、細かいところが気になってしまうのです。
「なんで日本の暴力団がドイツ軍にしか供与されていないライフルを持っているんだ」とか、「アメリカ映画のくせに、全弾撃ち尽くしたセミオートマチック銃のスライドストップが作動していない」とか、「作画の参考にしたであろう東京マルイのあのガスガンと同じ仕様の実銃は流通していないのでは?」とか、本筋とまったく関係ないところが気になってしまうんですよ。
前振りが長いですが、今回のネタは“虎に翼”に出てきた遺言書の内容についてです。
“虎に翼”というのはNHKで現在放送中の朝ドラです。
実在の女性法曹がモデルになっていて、法律関係の仕事をしている人のあいだでも話題になっているそうです。
私は、出かける前に洗濯物を干していたらアニメ「映像研には手を出すな」の浅草氏の声が聞こえる!と気が付いたのがこのドラマを見始めたきっかけだったのですが、それ以来見逃さないようにリアタイ視聴だけでなく、ばっちり録画もしています。
そんな“虎に翼”で、主人公:佐田寅子が結婚を考えていた恋人、星航一と事実婚をするために遺言を書く展開がありました。
「事実婚なら遺言は必須だよなー、分かってるじゃん」という謎の上から目線で感心していたのですが、ここでマニアの悪い癖。
うっかり一時停止してまじまじと内容を確認してしまうんですねー。
「ふーん・・・、こっ、これは・・・・・・ダメじゃん」
いや、ドラマの小道具としてはいいんですけどね、この遺言書でも。
ただ、世の中には同じような境遇の方も大勢いらっしゃって、そういった方たちが「そうか、こういう遺言を書けばいいんだ」なんてことになったらアカンわけですよ。
司法書士をやっていますと、いろんな遺言書が持ち込まれ、「これで相続登記をしてください」というご依頼をいただいたりするのですが、残念ながら使えないケースが結構あるんです。
遺言マニアとしては、そういった不幸なケースを少しでも減らしたく、これはブログで書かねば!という使命感からこの記事を書いております。
遺言書には遺言者の住所を必ず書こう!
「言いたいことは分かるけど使えない遺言書」というのは結構ありまして、そのなかでも残念としか言いようがないのが、遺言者の住所が書いていない遺言なのです。
なんでこういうミスが出るかというと、法律上、自筆の遺言書で必要とされているのは名前と日付と押印と、自筆で書くことだけなんですね。
なので、相続事件をあまり扱っておられない方だと、法律専門職ですら、うっかりと相談者に住所のない遺言を書かせちゃったりするんです。
金融機関によっては、OKにしてくれるところもありましたが、法務局は粘ってみたけれど無理でした。
同姓同名の人との区別がつかないというのが理由なのですが、確かにおっしゃる通りです。
今回ドラマに登場した遺言書も、見事に日付と氏名しか書いてないんです。
ドラマは実在の住所を書くと迷惑がかかるかもという配慮が働いたのかもしれませんが、架空の住所かNHKの住所でも書いとけばすむでしょうから、影響力の大きい朝ドラには、そうしておいてほしかったです。
住所の記載がない遺言書は、本ッ当ォ~に使えない(少なくとも相続登記では絶対)のでご注意を。
余談ですが、以前にも自筆証書遺言のことを扱っていたニュース番組で、画面に映っていた遺言書のひな形には住所の記載がありませんでした。
そのうち別の記事で書くかもしれませんが、新聞記事を参考にして作成された自筆の遺言書のせいでひどい目にあった相続人から相談を受けた経験のある私としては、どうしても専門家に頼りたくない方が遺言作成の参考にするのならテレビとか新聞ではなく、せめて専門の書籍にしといたほうがよいと思います。
「間違ってはいないが足りていない」ドラマに出てきた遺言書の問題点
遺言書の全体が映されていないのではっきりとは分かりませんが、どうやら航一は事実上の妻である寅子に3分の1、自分の子である朋一とのどか、寅子の娘である優未に対して各9分の2の割合で財産を渡すことになっているようです。
一方、寅子は事実上の夫である航一に3分の1、義姉である花江に3分の1、朋一、のどか、優未に各9分の1の割合で財産を渡すことになってるように読めます。
住所の件は別として、この遺言には内容的に二つの問題点があります。
一つ目は、「お互いに自分が先に死んだ場合のことしか想定していない」という点です。
この内容で先に航一が死亡した場合、寅子が航一の全財産の3分の1、朋一、のどか、優未は各9分の2ずつの割合で財産を取得します。
その後寅子が死亡した場合、花江は寅子の全財産(航一からの受贈分を含む)の3分の1、朋一、のどか、優未が各9分の1ずつを取得しますが、航一が取得するはずだった3分の1は、寅子の唯一の相続人である優未が取得することになります。
逆に、先に寅子が死亡した場合、航一は寅子の全財産の3分の1、花江も3分の1、朋一、のどか、優未は各9分の1ずつを取得します。
その後航一が死亡した場合、航一の財産(寅子からの受贈分を含む)から、まずは朋一、のどか、優未が各9分の2ずつの割合で財産を取得し、寅子が取得するはずだった3分の1は、朋一とのどかが遺産分割協議をして分けることになります。
そうなったら、朋一とのどかは、おそらく半分ずつで分けるでしょう。
仮に航一と寅子の財産の額が同じ程度で、最初の相続の発生後、次の相続まで財産の額に変化がなかったと仮定すると、相続人らは最終的に航一と寅子、二人分の資産を次のような割合で取得することになります。
航一が先に死亡した場合
朋一 18.5%
のどか 18.5%
優未 40.7%
花江 22.2%
寅子が先に死亡した場合
朋一 31.4%
のどか 31.4%
優未 20.3%
花江 16.6%
いかがでしょうか?
航一が先に死亡した場合、朋一とのどかが二度の相続で取得する財産は、花江よりも少なく、優未の半分以下です。
寅子が先に死亡すると、優未の取得する財産は航一が先に死亡した場合の半分になります。
結構な違いが生じていますよね。
現実に私が関わった事件でも、子どものいない夫婦が立て続けに亡くなり、先に亡くなった方の親族が、「死亡のタイミングが数か月違っただけでもらえる遺産に差が出すぎるのは納得いかない」といってトラブルになったケースがありました。
夫婦のどちらが先に死亡するかという完全なる不確定要素だけで、受け取る遺産に大きな差が生じてしまうというのは問題があります。
公証役場では予備的遺言とか予備的条項などと呼ばれていますが、相続させたり遺贈したりする相手が遺言者より先に死亡した場合には、宙に浮いてしまう財産をどうするのか記載しておくことがトラブルを回避するためには必要です。
二つ目は、「不動産について書かれていない」という点です。
劇中では航一の父親である星長官は亡くなっていますが、状況的にはおそらく航一が星長官の不動産を相続している可能性が高いでしょう。
そうなると、この遺言では、航一の実子である朋一とのどかが、寅子や優未と不動産を共有することになってしまいますが、その状態はあまり好ましくなさそうですよね(20240902追記:けっきょく劇中ではすぐに和解しましたが)。
どの子もまだ学生なので、将来どうなるかはハッキリしていないかもしれません。
ただ、そうであっても遺言というのは「書いた直後に相続が発生したとしても困らないようにする」というところを目指すべきです。
ですから、せめて寅子・優未グループと朋一・のどかグループが共有になる事態は回避できるよう配慮すべきといえます。
では、航一がまだ不動産を取得しておらず、将来的に継母である百合から取得する見込みである場合にはどうでしょう。
その場合には、「遺言者が相続開始時に下記不動産を取得していた場合には、○○に遺贈する(もしくは相続させる)」としておけばよいのです。
こっから先は本当に重箱の隅のお話
ドラマ的にはオッケーなので、この先の話は蛇足かもしれませんが、参考までに。
そもそも、遺言書というのは遺言者が死亡したときに効力を生じるものです。
また、「誰それが事実上の配偶者である」ということを宣言することに、法的な意味はありません(劇中では生活費の負担云々の記載もありましたが、死亡後には無意味ですよね)。
劇中では二人が親族の前で書いてましたから、法的効力よりも親族を安心させるためという意味合いが強かったのでしょう。
なので、自筆で作成する分にはご自由にどうぞの世界なのですが、公正証書で作成する場合、公証人によっては「誰それを事実上の夫であることを~」とか、生活費の負担について遺言本文に記載することについては難色を示されることもあるでしょう。
そういった場合には、付言で書くようにするなど工夫してみてください。
まとめ
ずいぶん長くなりましたが、今回の話をまとめると、こんな感じでしょうか。
・遺言書には遺言者の住所も書こう
・自分が先に死んだ場合だけでなく、パートナーが先に死亡した場合も想定しよう
・不動産の扱いを明確にしよう
・公正証書にするときは、法的な拘束力のない事柄は付言で書くのもアリ
フィクションの世界に現実の話を持ち出すのは野暮かとも思ったのですが、そのまんま真似しちゃう人がいると大変だな、ということでご容赦を。
“虎に翼”の残り話数も少なくなってきましたが、これから先、どんな展開が待っているのかネタバレ(史実)を見ないようにして楽しみたいと思います。
負動産を相続したくないあなたが国庫帰属制度の利用を急ぐべき3つの理由
相続土地国庫帰属制度の開始は歴史の転換点
令和5年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」ですが、この制度によってそれまでは不可能だった「不動産を捨てる」という行為が可能になりました(法務省作成のパンフレットでは「国に引き渡す」と表現していますが)。
日本では長いこと不動産というものは基本的に価値あるものとして扱われてきましたが、使われず放置されている不動産が増えてくると、そのような不動産は「負動産」などと呼ばれるようになりました。
ブラウン管テレビがデジタル放送への切り替えで使えなくなってしまったように、農地や山林も時代の変化とともに、その価値を失ってしまったのです。
日本の人口が減り続けている以上、今後不動産の需要が増加する見込みはなく、都市部とそれ以外の不動産の価格の差は広がっていく傾向にあることからも、これは仕方のないことです。
「国民から不動産を買い取る制度」ではなく「国民が手数料を払って不動産を引き取ってもらう制度」である国庫帰属制度の創設は、不動産には必ずしも財産的価値があるものではないということを国がはっきりと認めた、歴史の転換点と言えるでしょう。
親が負動産を持っているけれど、よくわからないから相続が始まってからゆっくり考えよう、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それは悪手です。
相続の後で、と言わずに親の代、祖父母の代で済ませておいてしまうのが理想的なのです。
今回は、相続土地国庫帰属制度を早めに済ませておくべき3つの理由についてご紹介いたします。
時間が経つと不動産が特定できなくなる
相続土地国庫帰属制度を利用しようとするときに最初に問題になるのは、該当する不動産がどこにあるのかを特定できないということです。
地番が分かれば場所を特定するための方法はいくつかあるのですが、それらはあくまでも書面上の話であり、現地に行けるかどうかは別の話です。
筆者も、調査依頼を受けた土地のおおよその場所を特定して山に登ってみたものの、結局たどり着けなかったことがあります。
そこは舗装された農道から1キロほど離れた山林だったのですが、登り口を探すのに30分かかり、1時間ほど登った先でリタイアして引き返すことになってしまいました。
長い間誰も通っていない山道には草木が生え、倒木が立ちふさがり、途中から道そのものがなくなってしまっていたのです。
雑種地や農地はまだ比較的分かりやすいですが、山林に関しては目印と呼べるものがないので、その場所に一度でも行ったことのある方でなければ場所は分からないでしょう。
また、農地や雑種地などは現地までたどり着けても、境界がどこなのか目印がないことが多く、判断がつきにくいという問題があります。
例えば、「あぜ道の東側の田んぼがうちの土地です」と言われても、よくよく確認しようとした時に、あぜ道の中心が境目なのか、あぜ道の端が境目なのかが分からなかったりするのです。
また、隣地の所有者と境界を確認しようにも、隣地の所有者も世代交代で詳細を把握できていなかったりするのです。
これらの事情から、現地の場所を知っている方がお元気なうちに手続きをするほうがよいのです。
負動産の押し付け合いを回避でき、相続税の節税もできる
農業や林業を営んでいない限り、農地や山林を所有することは負担でしかありません。
農地であれば近隣の農地に迷惑がかからないよう定期的な草刈りが必要ですし、山林も災害時に民家や道路に崩れてしまったら損害賠償を請求されてしまいます。
仮に今は借り手がいる場合でも、農業や林業の担い手は年々減少しており、いつ使ってもらえなくなってもおかしくないのです。
このため、遺産に農地や山林が含まれていると、遺産分割協議の際に相続人の間で押し付け合いになってしまいます。
あらかじめ国庫帰属していれば、相続人が負動産を相続しなくて済むため、このような押し付け合いは起こりません。
また、遺言書を書いておく場合でも、誰かに負動産を継がせることで、その相続人から恨まれるようなこともなくなります。
さらに付け加えると、相続発生前に国庫帰属を済ませておくと、相続税で有利になることもあります。
国庫帰属の審査が済んだ後、負担金を国に納めることによって不要な土地を引き取ってもらえるのですが、山林や農業振興地域内の農地は面積によって負担金の額が増えるため、総額が数百万円になることもざらにあります。
仮になにもせず相続が発生し、相続税を納めた場合、相続した土地と預貯金に対する税金を取られたうえ、さらに後からお金を払って負動産を処分する羽目になります。
先に国庫帰属を利用していれば、土地も預金も減った状態になるので、後から国庫帰属を利用する場合に比べて相続税も安くて済むのです。
放置するほどコストはかさむ
農地や雑種地を国庫帰属させるには、その土地を完全に更地にすることを要求されます。
木が生えていた場合には切るだけではなく、根を完全に抜かなければなりません(例外的に、敷地の隅で絶対邪魔にならない切り株であればお目こぼしをもらえることも、“なくはない”そうですが)。
定期的に草刈りをしていればよいのですが、放置されていると鳥や風によって運ばれた種から木が生えてしまうことがあります。
筆者も国庫帰属の申立てを予定している不動産の現地確認をした際、数年前まで水田だった土地に立派な木が生えているのに遭遇したことがありました。
こうなってしまうと、草刈りだけでなく木の伐採、抜根、搬出まで専門の業者に依頼しなければならないので、費用が大きく跳ね上がることになります。
また、こまめに手入れをするにしても、それが5年、10年と積み重なっていけば、その金額はばかになりません。
使わないでいる不動産に対しては、お金は出ていくばかりなのです。
まとめ
今回は、国庫帰属制度の利用を後回しにすると
・場所を知っている人がいなくなってしまう
・相続でもめやすくなる
・コストがかさむ
というデメリットがあることをご紹介しました。
まだ始まったばかりで歴史の浅い制度ですので、負動産について心配されていらっしゃる方は、司法書士をはじめとする専門家にご相談ください。
当事務所でもご相談を承っております。
タワマン買ったら遺言を書こう!おふたりさまのための財産防衛術
遺言を書くのは早いほうが良いけれど、不動産を買ったら特に急ぐべき
遺言書はいつになったら書けばよいか、という質問をいただくことが多いのですが、これに対する回答はひとつ、「早いに越したことはありません。」です。
特にいわゆるおふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)は、遺言の有効性が高いため、万が一のことを考えるなら少しでも早く作っておくのが正解です。
とはいえ、お二人とも元気なうちは遺言を書いておこうという気分にはなりにくいのも仕方ないことではあるでしょう。
そういう訳で、遺言を書かれる方は一部を除いて70代以上の方が多いのですが、おふたりさまが不動産を買った時だけは、本当にすぐに遺言書を書いていただきたいのです。
今回は、不動産を購入したときに陥りやすい罠と、その回避方法についてご案内いたします。
死亡後の返済には備えているのに死亡後の相続手続きには無防備という状態
金融機関で住宅ローンを組む場合、通常は団体信用生命保険(通称:団信)に加入します。
これは、返済中に借主が死亡してしまった場合にローンの残額が保険によって支払い不要、チャラになるというものです。
団信は半強制とはいえ、ほとんどの方が納得して加入しています。
借主は家計を支えていることが多いですから、その方が死亡してしまったら返済が困難になってしまうのは容易に想像できますので、これは当然といえるでしょう。
筆者も自宅を購入する際にはお金を借りましたが、土地を買ってから家を建てたせいで家が完成するまで団信が有効にならず、家の引き渡しまでは自動車で出かけるときにも気が気ではありませんでした。
しかし、団信の重要性は理解していても、債務者が死亡してしまった場合の相続手続きに備えておくことの重要性にまで気が付いていらっしゃる方はまだまだ少数派なのです。
団信によって相続財産が増加することで生じる相続リスク
通常、ローンの契約時に半強制的に加入させられるますので、団信に未加入ということはまずないのですが、実はこれが逆に不幸を呼んでしまう事態がありうるのです。
それは、団信があると財産が増えてしまうという、一見良いことのように見える現象によって引き起こされるのですが、「他の相続人から相続分を請求されてしまう」ことがあるのです。
住宅ローンの返済方法は元利均等なので、はじめのうちは元金がなかなか減りません。
一方、不動産は買った瞬間に値が下がりますので、住宅購入時の頭金が多額であれば別ですが、オーバーローン(借入が不動産の価格を上回っている状態)である期間が長くなるのです。
このため、不動産をローンで買うと、しばらくは預貯金と合わせても資産はマイナスか、ゼロに近い状態になるでしょう(もちろんそうではない方もいらっしゃるでしょうが)。
仮に団信がない状態で、ローンが始まって数年以内に相続が開始したら、遺産の総額はマイナスになりますので、他の相続人から遺産をよこせと要求されることはないでしょう。
しかし、団信があると住宅ローンが完済されてしまうため、結果として遺産の総額が一気に増えるのです。
しかも、遺産の内訳は不動産が大きな割合を占めることになります。
そうなると、せっかく配偶者から相続したお金のほとんどを他の相続人に渡す羽目になってしまったり、ひどい時には相続したお金に自分の預貯金を上乗せして渡す必要すら有りうるのです。
住宅ローンを払い続けるよりは安上がりなのかもしれませんが、こうなりたくはないですよね。
配偶者に全財産を相続させるという内容の遺言を書こう
おふたりさまが相続トラブルを避けるためにもっとも有効な方法は、配偶者に全財産を相続させるという内容の遺言書を書いておくことです。
配偶者を亡くした悲しみの中、遺産の処理で悩むのは大きな負担になりますし、トラブルが生じると預金を解約するまでの時間も長くなってしまいます。
きょうだいには遺留分がありませんので、遺言さえあれば配偶者は遺言書の内容のとおりに相続ができますし、仮に亡くなった方の親がご存命であり、遺留分の請求をされてしまったとしても、渡す財産は遺産分割協議をするときの半分で済みます。
まとめ
今回は、不動産をローンで買った時に起こりうる相続リスクについてご紹介しました。
・団信は返済についての心配は解消してくれるが、相続リスクは増やしてしまうことがある
・相続リスクは遺言書を書いておくことで軽減できる
年配の方には公正証書での遺言作成を強くお勧めしていますが、若いうちに作成されるのであれば、予算に応じて自筆証書遺言を法務局に預ける方法もありです。
夫婦で築いた財産を守るため、不動産を買われたときには遺言書の作成を検討してみてください。
市町村への遺贈寄付はなぜ増えないのか
寄付が欲しい市町村と市町村を選ばない遺言者
7月31日に日本経済新聞が、遺贈寄付に関して磐田市と静岡銀行、浜松いわた信金が協定を結んだというニュースを報じていました。
遺贈寄付の件数を伸ばしたい市町村が金融機関との間で遺贈寄付に関する協定を結んだというニュースが時々報じられていることからも、まだまだ遺贈寄付の件数は少ないのでしょう。
磐田市も、これまではせいぜい年に1件あるかないかという状況だったそうです。
とはいえ、市町村に遺贈寄付をしたいと考えている方が全然いないという訳ではありません。
実は筆者の経験上、遺言の作成について相談をうけているときに寄付先として市町村を候補に挙げられる方はいらっしゃったのですが、最終的には候補から外されてしまうことがほとんどだったのです。
つまり、遺言の内容を考えているうちに市町村から他の団体へと寄付したい先が変わってしまっていたということです。
それはいったいなぜなのか。
今回は、いつもと少し趣向を変えて、遺贈先に選ばれやすい先は、どんな理由で選ばれているのかを解説していきます。
遺言書を作成したいけれど、どこに寄付をしたらよいか分からないという一般の方にも参考にしていただける記事だと思いますので、ぜひご覧ください。
寄付の使いみちがはっきりしている団体は選ばれやすい
遺言の作成を検討されている方は、ごくたまーに、40代から50代くらいの方もいらっしゃるのですが、大多数は70代以上です。
そういったご年配の方々が、ご自分がこれまでに築き上げてこられたご資産を誰に託そうかと考えたとき、長い人生において大事にし続けてこられたもの、感謝している相手、共感している対象を優先するのは当然のことでしょう。
具体的な団体を指名される場合には、付き合いの長かったお寺だとか、お世話になった医療法人だとかを選ばれることが多いです。
一方、ペットを飼っているので動物愛護関係にお金を役立ててほしいとか、自分たちには子どもがいなかったけれど、親を亡くした子どもたちのためにお金を使ってほしいとご希望される方は、そういった団体があったらおしえてほしい、とおっしゃいます。
冒頭にご紹介した磐田市は、遺贈寄付の際に寄付金の使途を指定できるようですが、市町村によってはそうでないところもあります。
これは、遺贈はいつ受けられるのか予想しようがないのと、寄付のあったときだけ予算を増やすわけにもいかないことから、仕方のないことでもあるのですが・・・
そうすると、自然と特定の目的のために活動している団体が寄付先として選ばれることになるわけです。
不動産を引き取ってくれる団体は選ばれやすい
遺贈寄付を検討されている方の多くは、いわゆるおひとりさま、おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)であることが多いのですが、そういった方々の悩みとして、「死後に自宅の処分をどうしたらよいのか」という問題があります。
この点につき、いくつかの公益団体は不動産の遺贈も引き受けられることをアピールされています。
私たちが遺言作成のご相談をいただく際、自宅不動産の処分について心配されていらっしゃる方に対しては、不動産もまとめて遺贈できる先として、そのような団体の紹介を優先することになります。
相談しやすい窓口の不在
ここまでは市町村に寄付をしようと考えていらっしゃった方の気が変わってしまう原因をご紹介しましたが、市町村に対して遺贈寄付の相談をしにくい原因の一つとなっているであろう事象をご紹介いたします。
当事務所で将来的に遺贈寄付をしたいというお客様から相談をいただいた際には、寄付を募集していることがどう見てもあきらかである団体を除いて、司法書士から寄付の受け入れ可否についてあらかじめ問い合わせをするようにしています。
依頼をいただいているお客様は、「いつ頃、いくらくらいの寄付になるか分からないので名前を伏せて問い合わせたい」と考えていらっしゃる方が多いからです。
このような問いあわせをすると、遺贈寄付を検討している誰なのかとしつこく尋ねられることもありますし、とんでもない話なのですが、遺贈の希望者を特定して生前に寄付をさせようと目論んでいるような口調の団体も・・・あります。
私たち専門家は寄付先の選定に関しては中立の立場ですが、遺贈に関して遺贈相手の開設した相談窓口には直接話をしにくいというのは当然のことといえるでしょう。
餅は餅屋、相続は相続の専門家に相談すべき
たとえば、ある飲料メーカーが新製品のテレビCMを作りたいと思った時、相談すべき相手はテレビ局だけではなく広告代理店も含まれますよね?
市町村が遺贈寄付に関して相談しようと考えたときも、金融機関だけではなく、そこと提携して実際に遺言を作成している信託会社とも相談すべきなのです。
実際、寄付を多く集めることができている慈善団体は信託会社へのアプローチも怠っていません。
筆者も信託会社に在籍していた際には、いくつかの慈善団体のPRを拝聴したことがありますし、そこを遺贈先としてお客様にご紹介したこともあります。
また、おひとりさまやおふたりさまは、亡くなった後の自宅や施設の後片付け、各種手続きの代行についても関心をお持ちであることが多いのですが、これらも信託会社と連携することで対応できるため、遺贈寄付と信託会社は相性がいいのです。
ですから、遺贈寄付に関しては、金融機関だけではなく、その提携先である士業事務所の運営する信託会社にもコンタクトを取り、三者で連携することが重要なのです。
まとめ
今回は、市町村に対する遺贈寄付が増えないことに関連し、
・特定の目的のために活動している団体は寄付先として選ばれやすい
・不動産を引き取ってくれる団体は寄付先として選ばれやすい
・遺贈する相手には相談しにくい
・遺贈寄付を増やしたいときには金融機関と信託会社に相談すべき
という内容についてお話させていただきました。
当事務所では一般のお客様からのご相談だけでなく、金融機関の本部で相続業務の推進に携わっていた経験を活かし、遺贈寄付を増やしたい市町村や、相続関連業務を増やしていきたいという金融機関からのご相談にも対応できます。
お気軽にご相談ください。
金銭的損得から考えるおふたりさまの遺言書の要否
遺言作成にお金をかけるのは無駄?
遺言の作成についてのご相談をお受けしている際、お客様が気にされることの上位に費用の問題があります。
確かに司法書士に依頼をするとそれなりの報酬をお支払いいただくことになりますし、ご夫婦で作成されれば単純にほぼ倍のコストがかかります。
そうなると、わざわざ現時点でお金をかけなくても、実際に相続が発生したときにどうすればいいか考えればいいや、という方向に気持ちが傾きがちです。
ですが、相続に関することは、相続が始まってしまった後ではどうにもならないことばかりなので、対策するなら生前に、なおかつ元気なうちにやっておくべきです。
今回は、遺言を作っておくことの損得を、金銭面から考えてみたいと思います。
おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)の相続リスク
ときどき勘違いしていらっしゃる方もおられるのですが、お子さんのいらっしゃらない夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者がすべてを相続できるようになるわけではありません。
亡くなった方の親が健在であれば親が、両親とも亡くなっている場合には、亡くなった方のきょうだいもしくは甥姪が相続人として手続きに関わってくることになります。
相続人全員で遺産の分け方について話し合い、それがまとまってはじめて、遺産を自由に使えるようになるのです。この話し合いを遺産分割協議と言います。
ところが、遺産分割協議がまとまらない・できない場合があるのです。
こうなってしまう主な理由は次の二つです。
①相続人が協力してくれない
②相続人が認知症になっている
相続人が協力してくれないという①のケースは、手紙を出しても怪しがって返事をしてくれない場合も含みますが、困るのは法定相続分や、それ以上の財産を欲しがられてしまった場合です。
遺言がない時には、よほどの事情がない限り、相続人の有する法定相続分をひっくり返すことはできません。
なので、仮に裁判所まで行くことになったら、法定相続分は渡すことになるでしょう。
次に、②の相続人が認知症になってしまっている場合ですが、話ができなければ当然遺産の分け方についても決められません。
そのため、本人の代わりに成年後見人という役割の人を選び、遺産分割協議をしてもらわなければなりません。
成年後見人が選ばれた場合に大変なのは、法定相続分の遺産を、なるべく管理しやすい財産で相続させることを家庭裁判所から求められることです。
例えば、使っていない空き地があったとしても、その空き地でなく現金をわたさなければなりません。
さらに大変なのは、現行の制度では成年後見人は、本人が亡くなるまで終了できないということです。
相続の手続きが終わっても、後見は終わらないため手間とコストがかかるのです。
遺産分割協議ができない・まとまらないときのコスト
他の相続人が意思表示はできても話がまとまらず、弁護士を立てることになった場合には、着手金や報酬を支払う必要がありますが、仮に1000万円の遺産を受け取ることになったときには、トータルで100万円程度は費用がかかります。
なお、家庭裁判所で調停を始めた場合、通常1年程度、長いと2年から3年程度の期間を要します。
成年後見人が必要となった場合、次の費用がかかります。さらに、それに加えて法定相続分の資産を、原則として現金で相続させなければなりません。
後見人選任申立 10万円~
後見人報酬 24万円~@年(財産の額により変動、被後見人の死亡まで継続)
また、遺産はいらないと言っていた相続人も、被後見人が受け取っているのを見て、「それならやっぱり自分も欲しい」と意見をひるがえすこともあります。
相続対策の要否はリスクとコストを天秤にかけて考えるべき
もちろん、相続人全員が健康で、なおかつ協力的であれば、遺言書がなくても手続きはスムーズに進むでしょう。
ただし、相続人のうちたった一人でも認知症になってしまっていれば、その前提は崩れてしまうのです。
遺言書を作っておくことは、言うなれば保険です。結果的にはなくても大丈夫だった、ということになるかもしれませんが、不幸にもそうではなかった場合には、遺言を書いてくれた家族に感謝することになります。
特にお子さんのいらっしゃらないご夫婦の場合、遺言書の効果は絶大です。
亡くなった方の親が健在でも遺留分は遺産全体の6分の1で済みますし、両親とも亡くなっている場合には遺留分は問題とならず、夫婦間ですべての財産を相続させることができます。
遺言書の作成を当事務所にご依頼いただいた場合、報酬と公証役場の費用を合わせてお一人当たり20万円~30万円程度になります(ご資産の多寡によって変動します)が、何かあったときにかかる金銭的コストと比較すれば、かなり低く抑えられるはずです。
まとめ
今回は、
・おふたりさまの相続にはリスクがある
・リスクが現実化した場合には相続対策以上のコストがかかる
・相続対策はトラブル発生に備えた保険である
という内容で相続対策の要否についてご説明させていただきました。
当事務所にご相談いただければ、個々の家庭の事情に即したアドバイスをさせていただきます。
迷っていらっしゃる方は、ぜひともご相談ください。
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