Archive for the ‘相続登記’ Category

遺言作成テクニック応用編 「あえて」の遺留分無視

2024-10-31

遺留分への配慮は大事だけれど・・・

前回のコラムで、遺言を作成する際には遺留分に配慮するのが大事であるというお話をしました。

配偶者、子(孫)、親(祖父母)には遺留分という権利があるため、安易に偏った内容の遺言を作成してしまうと、優遇したかった相手が逆に不利になってしまうことがあるのです。

ですから、遺言書を書く時には遺留分に注意しなくてはならず、筆者が相談をお受けするときにも遺留分については細心の注意を払っています。

ですが、世の中の多くのことに例外があるように、遺言にもまた例外があるのです。

場合によっては、遺留分への配慮が裏目に出てしまうことすらありますので、今回はその例外についてご紹介いたします。

遺留分を無視してでも遺産を渡さないほうが良い場合もある

相続人の中に行方の知れない人物がいた場合、その相続人の遺留分を考慮した遺言を作成すると、かえって面倒なことになってしまうことがあるのです。

連絡のつかない相続人が財産を取得することになっても、遺言執行者がその相続人にコンタクトをとることができなければ手続きをすることはできません。

遺言執行手続を完了させるためには、「不在者財産管理人」を選任し、相続させるべき財産を管理してもらわなければなりませんが、本人がいつ帰ってくるか分からず、失踪宣告がされたとしても取り消される可能性があるため安心できません。

このため、行方不明の相続人がいる場合には、その相続人には遺産を渡さない内容の遺言書を作成し、除籍期間(遺留分侵害額の請求が可能な期間)が経過してしまうのを待つ方が手続きが楽になるのです。

また、単に遺産を渡したくない相続人がおり、その相続人から遺留分侵害額を請求されるかどうか予測できないときには、通常であれば遺留分を考慮すべきです。

しかし、遺産の内容が現金若しくは現金化しやすい財産ばかりであるならば、相続人間の仲が悪くなることを覚悟のうえで遺産を受け取れない相続人がいるという遺言を作成するのはアリです。

遺留分を無視した遺言を作成した場合の注意点

遺産を渡さない相続人がいるときには、注意しておくべき点があります。

それは、遺留分侵害額相当の現金を用意しておくということです。

遺留分侵害額を請求されても十分に現金があるという理由で、相続人同士の仲違い覚悟で特定の相続人を極端に優遇した遺言を作成し、相続開始後に相続人全員に遺言と財産目録を開示した場合には、1年間請求されなければ遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。

なので、遺留分侵害額に相当する額のお金を1年間ストックしておけば

一方、行方の知れない相続人を手続きから事実上排除するために遺留分を無視した遺言書を作成した場合には、行方不明だった相続人がひょっこりと帰ってくる可能性に備えておかなければなりません。

具体的には、相続開始から10年間、遺留分侵害額を請求されても支払えるようにお金をストックしておくことになります。

まとめ

今回は遺言書を作成するときの鉄則、遺留分への配慮についての例外をご紹介しました。

・遺産を一切渡さないほうがよいケースがある

・遺産を渡さない場合には、一定期間遺留分侵害額の請求には備える必要がある

というのが今回の内容でした。

遺言の作成時には、気を付けるべきポイントが多数ありますので、ご心配であればお気軽にご相談ください。

ゼロからの相続入門 相続で知っておくべきことってなに?

2024-09-25

相続とは、ある人物が死亡することにより、その人物の一定範囲内の親族が、死亡した人の権利と義務を引き継ぐことです。

死亡と同時に相続の効力が発生しますので、一定期間内に家庭裁判所に対して相続放棄(最初から相続人でなかったことにする)の申し出をしない限り、相続人は自動的に権利と義務を承継したことになります。

相続する人の範囲は法律で決まっている

誰が相続人になるかということは、法律で定められています。

そのため、例えば子どもが生存しているのにその子ども(本人から見て孫)が相続人になることは、通常ではありません。

仮に相続発生後に孫に渡したい財産がある場合には、遺言書を作成しておかないと、孫が直接受け取ることはできないのです。

なお、遺言を作成し、特定の人物や団体に遺産を渡した場合でも、それは遺贈(遺言による贈与)であって、相続したということにはなりません。

権利と義務はセット

相続が発生すると、亡くなった方の権利と義務は相続人に移転します。

このとき、権利だけを引き継いで義務からは逃れるということはできません。

また、義務(借入金の返済)については、誰が引き継ぐかということは相続人だけでは決めることができず、貸主である金融機関等の同意が必要となります。

そうでないと、例えば長男がすべての財産を引き継ぎ、長女がすべての負債を引き継いだ後に破産して、長男と長女で財産を山分けする、というインチキができてしまうからです。

なお、仮に貸主が同意してくれたとしても、受け取る財産と負債のバランスによっては、相続税の申告で不利になることがありますので、債務も相続する場合には税理士に相談することを強くお勧めします。

相続開始前に相続を放棄することはできない

相続は、ある人物が死亡することによって開始されますので、相続の開始前に相続を放棄することはできません。

ですから、多額の借金があることが明らかである方が死亡することによって相続人になる可能性があったとしても、相続開始前にあらかじめ相続放棄をすることはできません。

なお、相続放棄をするためには相続が発生し、自分が相続人になったことを知ってから三か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりませんので注意してください。

期限のある相続手続きに注意

相続に関する手続きには、期限の定められている手続きがあります。

主なものとしては、

相続放棄:自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月以内

準確定申告:相続開始から4か月以内

相続税申告:相続開始から10か月以内

相続登記:不動産を相続によって取得したことを知ってから3年以内

いずれも期限を過ぎると手続きができなくなってしまったり、罰金を科されたりといった不利益がありますので注意が必要です。

まとめ

今回は、相続についての基本をご紹介しました。

・相続は、ある人物が死亡することによって始まる

・相続人の範囲は法律で決まっている

・プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続しなければならない

・期限の決まっている手続きに注意

いずれも基本的なことではあるのですが、何度も体験することではないのでご不明な点、ご不安なことがあればご相談ください。

相続手続きで失敗しないための貸金庫利用法

2024-09-05

災害対策や防犯目的のため、銀行の貸金庫を利用されている方は多いですが、使い方によっては相続手続の際に貸金庫がネックになってしまうことがあります。

場合によっては、貸金庫を使っていたために相続登記をはじめとする相続手続きががスムーズにできず、困ってしまうという事態もありえるのです。

今回は、相続手続きをスムーズに進めるためにはどうしたらよいかという観点から、貸金庫の利用方法についてご説明します。

貸金庫に入れてはいけないもの

貸金庫に大切なものをしまっておくというのはよいことですが、何でもかんでも貸金庫に入れておけばいいというものではありません。

逆に、大切なものであっても絶対に貸金庫に入れておかないでいただきたいものがあります。

それは、貸金庫を借りているご本人が書いた遺言書です。

金融機関は相続関連のトラブルを避けるため、貸金庫の契約者が亡くなった場合には、貸金庫の利用を停止します。

これは、相続人の誰かが金庫の中身を勝手に持ち出して、他の相続人からクレームが出ることを防ぐためです。

そのため、貸金庫に遺言書が入っていた場合には、相続人であっても容易には持ち出すことができず、他の相続人の同意が必要となるのです。

たとえば、子どものいない夫婦が相続手続きをスムーズにするため、お互いに遺言書を書いていたとしましょう。

自筆の遺言書に「すべての財産を妻である○○に相続させる」と書かれていることを妻が知っていたとしても、封がされていれば他人には中身は分かりません。

そうなると、貸金庫の中の遺言書を持ち出すためには、亡くなった夫のきょうだい全員の同意が必要となります。

このとき、夫のきょうだいに連絡のつかない人がいたり、認知症の人がいたりすると遺言書が持ち出せません。

遺言書が使えれば必要がなかったのに、貸金庫に入れていたせいで後見人や不在者財産管理人を選任しなければならなくなってしまうと、時間とお金が無駄にかかってしまいます。

夫が書いた遺言を妻名義の貸金庫に入れておく、というのなら問題ありませんが、貸金庫には相続手続きを進めるのに必要となるものは入れてはいけないのです。

貸金庫に入れる際には注意すべきもの

貸金庫に入れてもおいてもいいけれど、注意が必要となるものは、貴金属類です。

相続税の申告が必要な場合には貴金属の価格を評価しなければなりませんし、遺言がない場合には貴金属類も遺産分割協議の対象になりますが、そもそも評価が分からなければ遺産分割協議ができませんよね。

でも、貸金庫に入ったままでは鑑定・評価ができないので困ってしまうのです。

金のインゴットや高価な宝石類など、資産価値の高いものを貸金庫に入れておく場合には、あらかじめ遺言書で渡す相手を決めておくほうがスムーズです。

貸金庫に入れても問題ないもの

所有者が亡くなった後には使われないものについては、貸金庫に入っていても差し支えありません。

例えば、実印や銀行印については、生前には重要なものですが、所有者の相続が開始した後には使われることがないため、貸金庫にしまわれっぱなしでも問題ありません。

不動産の権利書は、相続人が相続する場合には相続登記の際に使用しません。

遺言によって相続人以外の誰かに遺贈することになっている場合には登記申請の際に使うこともありますが、なくても登記手続きは可能であるため、貸金庫に入ったままでも大丈夫です。

また、預金通帳についても口座の所有者の相続手続きには不要です。

一部の金融機関では、相続による解約の際にも通帳の提出を求められることがありますが、再発行(多少の手数料はかかりますが)すればよいので、貸金庫に預けたままでも手続きをすることは可能です。

生命保険の証書については貸金庫に入れてもいいですが、受取人が保険の存在を把握できていないと受け取りが遅くなってしまいます。

証書は貸金庫に入れていたとしても、保険金の受取人になっている人が保険の内容を把握できるように準備(どこの保険会社と契約しているか伝えておく、証書のコピーを渡しておくなど)しておくのが良いでしょう。

まとめ

貸金庫を利用する場合には、

・貸金庫の契約者が作成した遺言書は絶対に入れてはだめ

・すぐに持ち出せないと困るものは入れる場合にはよく考えて

・契約している保険会社や利用している金融機関は相続人が分かるように準備しておく

というポイントを押さえておけば、相続の際の困りごとは相当軽減できるはずです。

貸金庫を利用中の方、これからの利用を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。

Q&Aでわかる 相続登記の必須アイテム「名寄帳」の疑問あれこれ

2024-09-02

相続登記の義務化によって相続登記のご相談、ご依頼が増えていますが、相続の手続には普段使われない資料や専門用語がたくさん登場しますし、なんだかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

今回は、日常生活ではなじみの薄い「名寄帳」の分かりにくいポイントについてQ&A形式でご説明します。

Q:そもそも名寄帳ってなに?

A:市町村ごとに管理されている、ある人物がその市町村で所有している不動産を一覧表にしたものです。

解説:相続が生じた場合、亡くなった方のすべての不動産について相続登記をすることが義務付けられていますが、不動産の権利書や登記簿謄本を見ただけでは亡くなった方がどれだけの不動産を所有していたかまでは分かりません。

そこで利用すると便利なのが、名寄帳なのです。

亡くなった方が所有していた不動産の所在地の市町村役場に名寄帳を請求すれば、その方が所有していたその市町村内の不動産が一覧となって出てきます。

欠点は、請求した市町村の中にある不動産しか分からないという点です。

例えば自宅は静岡市だったけれど焼津の山にも畑を持っていたはず、という場合には、静岡市と焼津市の両方に名寄帳を請求する必要があります。

Q:固定資産税の請求書にも不動産の一覧が載っているけど、それではダメなの?

A:名寄帳にしか載っていない不動産が存在する可能性があるため、十分とはいえません。

解説:固定資産税の請求書(静岡市では「固定資産税・都市計画納税通知書」ですが、市町村によって名称が異なります)を見て亡くなった方の不動産を確認される方が多いのですが、実は固定資産税の請求書には、亡くなった方の不動産のすべてが記載されているとは限らないのです。

なぜなら、固定資産税の請求書は、固定資産税の課せられている不動産しか記載されていないからです。

たとえば、分譲地を購入した場合、公道から奥まった土地には私道がセットになっていることがありますが、私道部分は非課税であるため、固定資産税の請求書には載りません。

そのため、固定資産税の請求書を信じて相続登記をしてしまうと、後から私道部分の登記をしていなかったことに気が付くこともあるのです。

Q:名寄帳に載っている建物に家屋番号がない場合にはどうしたらいいの?

A:家屋番号のない理由によって処理の方法が異なります。

解説:名寄帳に家屋番号がない理由としては、①既存の建物の増築部分である、②未登記建物建物である、という二つが考えられます。

まずは①について解説します。

建物の評価は、一定のところまでは年々下がっていくため、建物が増築されたときには、増築部分だけが帳簿上は別個に記載されるのです。

このような場合には、名寄帳に記載された家屋番号のある建物について相続登記をすればよいのですが、登記にかかる登録免許税は増築部分の価格も合算して計算することになります。

次に②について解説します。

実は、未登記の建物が未登記である理由も二つあるのです。

一つは、単純に登記することをさぼっていたというもの。

もう一つは、そもそも登記できる建物ではないというものです。

前者は、自宅の購入時に借金をしていなかったケースで多く見られます。

この場合、表題登記(どこにどんな建物があるのかということだけを示した登記)を行い、その後に誰が所有者であるのかという登記をすることができます。

後者は、簡易な物置や車庫であり、登記をすることが認められた建物ではないというものです。

登記ができないけれど固定資産税のかかる建物については、誰が取得するのかを分割協議書に記載し、誰が取得したか(固定資産税を払うのか)を市役所に届け出れば手続きとしては十分です。

司法書士が解説する「遺産の分け方」基本のき

2024-08-22

遺産の分け方は大きく二つ、「遺言」と「遺産分割協議」

相続登記のご相談を受けていると、「遺産の分け方について教えてほしい」というご要望を頻繁にいただきます。

相続は一生のうちでも何度も遭遇することではありませんので、遺産の分け方について馴染みの薄いのは当たり前ですよね。

法律の手続となると一見難しそうですが、遺産の分け方はいくつもあるわけではなく、大きく分ければ二つだけですので、これだけ覚えていただいていれば十分です。

まず一つ目は、「遺言」によるものです。

これは、亡くなった方が生前に作成しておいた遺言書のとおりに遺産を配分する方法です。

もう一つは、「遺産分割協議」によるものです。

これは、相続人の話し合いによって遺産の分け方を決める方法です。

今回は、この二つの遺産の分け方について解説してみたいと思います。

遺産の分け方の優先順位

遺産の分け方には、「遺言」によるものと「遺産分割協議」によるものがありますが、遺言書がある場合には、常に遺言書が優先されます。

遺言書があれば遺言書に従って遺産が配分されるため、遺産分割協議をする余地は、基本的にはありません。

時々、遺言書があっても遺産分割協議ができると勘違いされている方もいらっしゃいますが、遺言書があっても遺産分割をすることがあるのは次のケースのみです。

ケース① 遺言書の内容が遺産のすべてを網羅できていない

たとえば、自宅不動産と預金が遺産となるのに、預金の分け方しか指定されていないような場合には、不動産の分け方について分割協議をしなければなりません。

ケース② 相続人「全員」が遺言書の内容に不満がある

たとえば、相続人が亡くなった方の息子二人のみで、長男に不動産Aを、二男に不動産Bを相続させるとする遺言書があっても、長男が不動産Bを、二男が不動産Aを欲しかった場合には、両者の合意によって遺産分割協議をすることができます。

ただし、不満を述べているのが相続人の一部のみであったり、遺言執行者が遺産分割協議をすることに反対しているときには遺産分割協議をすることはできません。

遺言の効力

ドラマや漫画で、死に直面したキャラクターに向かって「最後に言い残すことはあるか?」などと尋ねるシーンを見たことはありませんか?

このようなやり取りが古今東西さまざまなフィクションで登場していることからも、亡くなった人の言葉を尊重しようという考えは、人類にとって普遍的なものなのでしょう。

遺言というのはまさに「最後に言い残したいこと」であるため、遺言書には強力な法的効果が認められており、少なくとも一旦は遺言書のとおりになります。

たとえば、「全財産を長男に相続させる」という内容の遺言書があった場合、すべての遺産は長男のものになります。

この遺言によって遺留分を侵害されている相続人がいた場合には、侵害された遺留分を長男に対して請求することができますが、特定の財産を狙い撃ちで請求することはできず、金銭での補填が認められているのみです。

ですから、このようなケースで遺産の中に他の相続人が絶対に欲しいと思っている不動産があったとしても、その不動産を遺留分として請求することはできません。

遺産分割協議の自由度

これも勘違いされることが多いのですが、遺産分割協議の際に、法定相続割合を考慮しなければならないというルールは、基本的にはありません。

ですから、誰か一人がすべての遺産を相続するという内容であっても、他の相続人全員がそれで納得していれば問題ないのです。

ただし、分け方が自由であるといっても、相続人でない人物に相続させるという内容の遺産分割協議はできません。

また、債務の承継は誰がするのか、ということについては債権者の同意が必要です。

長男が財産をすべて相続し、二男が債務をすべて引き継いだ後に破産する、というようなインチキはできないというわけです。

なお、遺産分割協議がまとまらず、どうしても結論を出したいときには裁判所を利用することになります。

裁判所は法定相続割合を尊重しますので、裁判所まで行くことになってしまった場合には、余程の事情がない限り、最終的には法定相続割合で分けることになると思っていただいてよいでしょう。

まとめ

今回は遺産の分け方についてご紹介しました。

・遺産の分け方は「遺言」か「遺産分割協議」の二つ

・遺言があれば遺産分割協議はしない

・遺言書の効力は非常に強い

・遺産分割協議の内容は当事者次第で自由に決められる

というのがポイントです。

遺産の分け方についての個別具体的なご相談は、司法書士までご相談ください。

負動産を相続したくないあなたが国庫帰属制度の利用を急ぐべき3つの理由

2024-08-19

相続土地国庫帰属制度の開始は歴史の転換点

令和5年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」ですが、この制度によってそれまでは不可能だった「不動産を捨てる」という行為が可能になりました(法務省作成のパンフレットでは「国に引き渡す」と表現していますが)。

日本では長いこと不動産というものは基本的に価値あるものとして扱われてきましたが、使われず放置されている不動産が増えてくると、そのような不動産は「負動産」などと呼ばれるようになりました。

ブラウン管テレビがデジタル放送への切り替えで使えなくなってしまったように、農地や山林も時代の変化とともに、その価値を失ってしまったのです。

日本の人口が減り続けている以上、今後不動産の需要が増加する見込みはなく、都市部とそれ以外の不動産の価格の差は広がっていく傾向にあることからも、これは仕方のないことです。

「国民から不動産を買い取る制度」ではなく「国民が手数料を払って不動産を引き取ってもらう制度」である国庫帰属制度の創設は、不動産には必ずしも財産的価値があるものではないということを国がはっきりと認めた、歴史の転換点と言えるでしょう。

親が負動産を持っているけれど、よくわからないから相続が始まってからゆっくり考えよう、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それは悪手です。

相続の後で、と言わずに親の代、祖父母の代で済ませておいてしまうのが理想的なのです。

今回は、相続土地国庫帰属制度を早めに済ませておくべき3つの理由についてご紹介いたします。

時間が経つと不動産が特定できなくなる

相続土地国庫帰属制度を利用しようとするときに最初に問題になるのは、該当する不動産がどこにあるのかを特定できないということです。

地番が分かれば場所を特定するための方法はいくつかあるのですが、それらはあくまでも書面上の話であり、現地に行けるかどうかは別の話です。

筆者も、調査依頼を受けた土地のおおよその場所を特定して山に登ってみたものの、結局たどり着けなかったことがあります。

そこは舗装された農道から1キロほど離れた山林だったのですが、登り口を探すのに30分かかり、1時間ほど登った先でリタイアして引き返すことになってしまいました。

長い間誰も通っていない山道には草木が生え、倒木が立ちふさがり、途中から道そのものがなくなってしまっていたのです。

雑種地や農地はまだ比較的分かりやすいですが、山林に関しては目印と呼べるものがないので、その場所に一度でも行ったことのある方でなければ場所は分からないでしょう。

また、農地や雑種地などは現地までたどり着けても、境界がどこなのか目印がないことが多く、判断がつきにくいという問題があります。

例えば、「あぜ道の東側の田んぼがうちの土地です」と言われても、よくよく確認しようとした時に、あぜ道の中心が境目なのか、あぜ道の端が境目なのかが分からなかったりするのです。

また、隣地の所有者と境界を確認しようにも、隣地の所有者も世代交代で詳細を把握できていなかったりするのです。

これらの事情から、現地の場所を知っている方がお元気なうちに手続きをするほうがよいのです。

負動産の押し付け合いを回避でき、相続税の節税もできる

農業や林業を営んでいない限り、農地や山林を所有することは負担でしかありません。

農地であれば近隣の農地に迷惑がかからないよう定期的な草刈りが必要ですし、山林も災害時に民家や道路に崩れてしまったら損害賠償を請求されてしまいます。

仮に今は借り手がいる場合でも、農業や林業の担い手は年々減少しており、いつ使ってもらえなくなってもおかしくないのです。

このため、遺産に農地や山林が含まれていると、遺産分割協議の際に相続人の間で押し付け合いになってしまいます。

あらかじめ国庫帰属していれば、相続人が負動産を相続しなくて済むため、このような押し付け合いは起こりません。

また、遺言書を書いておく場合でも、誰かに負動産を継がせることで、その相続人から恨まれるようなこともなくなります。

さらに付け加えると、相続発生前に国庫帰属を済ませておくと、相続税で有利になることもあります。

国庫帰属の審査が済んだ後、負担金を国に納めることによって不要な土地を引き取ってもらえるのですが、山林や農業振興地域内の農地は面積によって負担金の額が増えるため、総額が数百万円になることもざらにあります。

仮になにもせず相続が発生し、相続税を納めた場合、相続した土地と預貯金に対する税金を取られたうえ、さらに後からお金を払って負動産を処分する羽目になります。

先に国庫帰属を利用していれば、土地も預金も減った状態になるので、後から国庫帰属を利用する場合に比べて相続税も安くて済むのです。

放置するほどコストはかさむ

農地や雑種地を国庫帰属させるには、その土地を完全に更地にすることを要求されます。

木が生えていた場合には切るだけではなく、根を完全に抜かなければなりません(例外的に、敷地の隅で絶対邪魔にならない切り株であればお目こぼしをもらえることも、“なくはない”そうですが)。

定期的に草刈りをしていればよいのですが、放置されていると鳥や風によって運ばれた種から木が生えてしまうことがあります。

筆者も国庫帰属の申立てを予定している不動産の現地確認をした際、数年前まで水田だった土地に立派な木が生えているのに遭遇したことがありました。

こうなってしまうと、草刈りだけでなく木の伐採、抜根、搬出まで専門の業者に依頼しなければならないので、費用が大きく跳ね上がることになります。

また、こまめに手入れをするにしても、それが5年、10年と積み重なっていけば、その金額はばかになりません。

使わないでいる不動産に対しては、お金は出ていくばかりなのです。

まとめ

今回は、国庫帰属制度の利用を後回しにすると

・場所を知っている人がいなくなってしまう

・相続でもめやすくなる

・コストがかさむ

というデメリットがあることをご紹介しました。

まだ始まったばかりで歴史の浅い制度ですので、負動産について心配されていらっしゃる方は、司法書士をはじめとする専門家にご相談ください。

当事務所でもご相談を承っております。

相続に関する相談で失敗しないためのコツ

2024-07-22

事前準備が相談の成否を分ける

令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、相続に関する相談の件数が増えています。

定期的に開催されている司法書士会や市区町村役場での無料相談会は予約でいっぱいですし、個々の司法書士事務所への相談、問い合わせも以前より増えています。

ところが、せっかく相談しに行っても、事前準備ができていなかったために時間が無駄になってしまうことがあります。

相談のために仕事を休んだり、遠くまで足を運んだのに満足のいく相談ができなかったらもったいないですよね?

そこで今回は、相続に関する相談をするときのコツをお教えします。

手ぶらで行っちゃダメ! 事前に用意すべきモノ

相続に関する相談で一番重要なのは、資産に関する資料を用意していただくことです。

例えば、「子どもが3人いるけれど長男に自宅不動産を相続させたい」という相談については、相談される方の金融資産と不動産、借入についての資料がないと、全くアドバイスのしようがありません。

相続に関する相談は、これからの関係者の人生をどうしたいか、そのために何をどうしたらよいかという相談に他なりませんが、そのためには財産の状況の確認が欠かせないのです。

将来に備えたい、という相談の際にご用意いただくべきモノ

・預金通帳

・有価証券に関する資料(証券会社の定期レポートなど)

・不動産の資料(固定資産税の請求明細、名寄帳など)

・借入に関する資料(返済予定表など)

すでに発生した相続に関する手続きの相談をしたいときにご用意いただくべきモノ

・亡くなられた方の預金通帳

・亡くなられた方の有価証券に関する資料

・亡くなられた方の所有されていた不動産の資料

・亡くなられた方の借入に関する資料

・亡くなられた方の戸籍(出生から死亡まで)

相談したいことの正しい伝え方

相談の予約をする際の、相談したいことの伝え方にもコツがあります。

役所などで開催される相談会では相談員の得手不得手もあったりしますので、例えば相続の相談だけれど後見人選任も必要なケースなどで、たまたま担当した相談員が後見事務について未経験だったりすると、適切なアドバイスが望めないケースもあります。

予約の時点で「どんな手続きを依頼したいか」(例:遺言書を書きたい、後見人をつけたい)ではなく、「最終的に目指したいのはどのような状態なのか」(例:自分たちの死後に障害のある子どもが困らないようにしたい)をお伝えいただくほうが、相談を受ける側も準備がしやすいので、相談をする側にとってもメリットがあります。

困っていることや気になっていることも予約の時点で伝えておくとよいでしょう。

相談までに親族間で話し合っておくこと

相談前に遺言書の書き方や家族信託のことなど、相談したいことについて予習してこられる方もいらっしゃいますが、特に必要はありません。

それよりも、可能な範囲で親族が相続後のライフプランについてどう考えているのかを共有していただくことをおすすめします。

例えば、子どもたちが将来、実家の不動産をどうしたいのか(住みたい、売りたい)だとか、県外に住んでいる子どもが地元に帰ってくるつもりがあるのか、といったことを相談前に確認していただいていると、遺言の作成についての相談でも遺産の分割についての相談でも方針を決めやすくなります。

まとめ

相続について相談するときには

①財産に関する資料を用意しておく

②予約の時点では最終的にどうしたいのかを伝える

③親族の意向を確認しておく

というのが相談を有益なものとするコツです。

大規模な相談会でも、個々の司法書士事務所でも、どちらで相談される際にも役に立つと思いますので、ぜひ参考になさってください。

当事務所でも、相続対策、老後の備えについての相談を承っております。

お気軽にご相談ください。

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