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遺言作成テクニック応用編 「あえて」の遺留分無視
遺留分への配慮は大事だけれど・・・
前回のコラムで、遺言を作成する際には遺留分に配慮するのが大事であるというお話をしました。
配偶者、子(孫)、親(祖父母)には遺留分という権利があるため、安易に偏った内容の遺言を作成してしまうと、優遇したかった相手が逆に不利になってしまうことがあるのです。
ですから、遺言書を書く時には遺留分に注意しなくてはならず、筆者が相談をお受けするときにも遺留分については細心の注意を払っています。
ですが、世の中の多くのことに例外があるように、遺言にもまた例外があるのです。
場合によっては、遺留分への配慮が裏目に出てしまうことすらありますので、今回はその例外についてご紹介いたします。
遺留分を無視してでも遺産を渡さないほうが良い場合もある
相続人の中に行方の知れない人物がいた場合、その相続人の遺留分を考慮した遺言を作成すると、かえって面倒なことになってしまうことがあるのです。
連絡のつかない相続人が財産を取得することになっても、遺言執行者がその相続人にコンタクトをとることができなければ手続きをすることはできません。
遺言執行手続を完了させるためには、「不在者財産管理人」を選任し、相続させるべき財産を管理してもらわなければなりませんが、本人がいつ帰ってくるか分からず、失踪宣告がされたとしても取り消される可能性があるため安心できません。
このため、行方不明の相続人がいる場合には、その相続人には遺産を渡さない内容の遺言書を作成し、除籍期間(遺留分侵害額の請求が可能な期間)が経過してしまうのを待つ方が手続きが楽になるのです。
また、単に遺産を渡したくない相続人がおり、その相続人から遺留分侵害額を請求されるかどうか予測できないときには、通常であれば遺留分を考慮すべきです。
しかし、遺産の内容が現金若しくは現金化しやすい財産ばかりであるならば、相続人間の仲が悪くなることを覚悟のうえで遺産を受け取れない相続人がいるという遺言を作成するのはアリです。
遺留分を無視した遺言を作成した場合の注意点
遺産を渡さない相続人がいるときには、注意しておくべき点があります。
それは、遺留分侵害額相当の現金を用意しておくということです。
遺留分侵害額を請求されても十分に現金があるという理由で、相続人同士の仲違い覚悟で特定の相続人を極端に優遇した遺言を作成し、相続開始後に相続人全員に遺言と財産目録を開示した場合には、1年間請求されなければ遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。
なので、遺留分侵害額に相当する額のお金を1年間ストックしておけば
一方、行方の知れない相続人を手続きから事実上排除するために遺留分を無視した遺言書を作成した場合には、行方不明だった相続人がひょっこりと帰ってくる可能性に備えておかなければなりません。
具体的には、相続開始から10年間、遺留分侵害額を請求されても支払えるようにお金をストックしておくことになります。
まとめ
今回は遺言書を作成するときの鉄則、遺留分への配慮についての例外をご紹介しました。
・遺産を一切渡さないほうがよいケースがある
・遺産を渡さない場合には、一定期間遺留分侵害額の請求には備える必要がある
というのが今回の内容でした。
遺言の作成時には、気を付けるべきポイントが多数ありますので、ご心配であればお気軽にご相談ください。
嫌いな相続人がいるときは要注意!間違いがちな遺言書
嫌いな人に財産を渡したくないという動機の落とし穴
遺言書を書こうというきっかけは人それぞれです。
コロナ禍では、有名芸能人の訃報が報じられた後に、一時的に遺言書作成の相談が増えたことがあります。
筆者も数百件の遺言書作成に携わってきましたが、世話になった相続人に多く渡したいという動機による遺言がある一方で、仲が悪い相続人に財産を渡したくないという動機に基づいた遺言も一定数あります。
ところが、世話になった相手に少し多く渡したいという遺言と比べ、嫌いな相手に渡したくないという遺言は極端な内容になりがちです。
内容を考える前に司法書士や弁護士に相談してくれていればよいのですが、怒りに任せてご自分で作成された遺言書は、かえって他の相続人に迷惑をかけてしまうことがあるのです。
遺留分を考慮しないのは危険
嫌いな相続人がいる場合、やってしまいがちなのが、嫌いな相続人に一切の財産が渡らないという内容の遺言を書いてしまうことです。
このような遺言書の何が問題になるかというと、相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があるということです。
遺留分というのは、遺言の内容にかかわらず取得できる、相続人にのみ最低限認められる権利のことで、法定相続分の2分の1(親のみが相続人の場合、3分の1)と定められています。
遺留分が認められるのは配偶者、子ども、親のみであるため、相続人がきょうだいや甥姪だけであれば、遺留分を考慮する必要はありません。
ですが、遺留分を侵害してしまっている場合、多く貰いすぎてしまった相続人は、侵害された相続人に対して、「現金で一括して」補填をする必要が生じてしまうのです。
遺産が現金のみであれば遺産から支払えば済むので問題にはなりませんが、遺産に占める不動産の割合が多いと、相続した現金より多くの現金を遺留分侵害額として支払わなければならなくなるケースもあるのです。
ですから、遺言書を作成する際には、遺留分に配慮した内容としなければなりません。
あるご家族における遺言の失敗
田中さん(仮名)夫婦には長女、長男、二女という三人の子どもがいました。
長女と二女は県外へ嫁いでいったため、年老いた田中さん夫婦の面倒は、隣の市に住む長男が見てくれていました。
ところが、長女と二女は田中さんにお金を無心するとき以外は実家に近づこうともしませんでした。
そこで、田中さんは自分の財産をすべて長男に相続させる内容の遺言を書きました。
問題が発生したのは、田中さんが亡くなった後のことでした。
長男が田中さんの遺産を確認してみたところ、不動産の評価が2000万円、預貯金が400万円ほどだったのです。
長女と二女は長男に遺留分を請求したため、長男がそれぞれに対して支払わなければならない遺留分の侵害額は遺産総額2400万円の6分の1にあたる400万円でした。
実家の不動産は固定資産の評価上は2000万円でしたが、山間にあるため不便なうえ、お隣さんの土地を通らないと道路に出られないため、売れても二束三文の土地でした。
結局、長男は自分の貯えから遺留分を支払い、手元に残ったのは価値の低い不動産だけでした。
下手に遺言を書いてしまったせいで、かえって長男に迷惑がかかる結果となってしまったのです。
まとめ
今回は、相続人間で受け取る遺産に差をつける場合には、遺留分に配慮する必要があることをご紹介しました。
・配偶者、子(孫)、親(祖父母)には遺留分がある
・遺留分は現金で請求されてしまう
・「すべての財産を○○に相続させる」という遺言は危険
遺言書の内容によっては、厚遇したかった相手にとって酷な結果となってしまうおそれがありますので、作成の際には専門家に相談することをお勧めします(法務局も公証役場も細かなアドバイスまではしてくれません)。
当事務所でも遺言に関する相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
ゼロからの相続入門 相続で知っておくべきことってなに?
相続とは、ある人物が死亡することにより、その人物の一定範囲内の親族が、死亡した人の権利と義務を引き継ぐことです。
死亡と同時に相続の効力が発生しますので、一定期間内に家庭裁判所に対して相続放棄(最初から相続人でなかったことにする)の申し出をしない限り、相続人は自動的に権利と義務を承継したことになります。
相続する人の範囲は法律で決まっている
誰が相続人になるかということは、法律で定められています。
そのため、例えば子どもが生存しているのにその子ども(本人から見て孫)が相続人になることは、通常ではありません。
仮に相続発生後に孫に渡したい財産がある場合には、遺言書を作成しておかないと、孫が直接受け取ることはできないのです。
なお、遺言を作成し、特定の人物や団体に遺産を渡した場合でも、それは遺贈(遺言による贈与)であって、相続したということにはなりません。
権利と義務はセット
相続が発生すると、亡くなった方の権利と義務は相続人に移転します。
このとき、権利だけを引き継いで義務からは逃れるということはできません。
また、義務(借入金の返済)については、誰が引き継ぐかということは相続人だけでは決めることができず、貸主である金融機関等の同意が必要となります。
そうでないと、例えば長男がすべての財産を引き継ぎ、長女がすべての負債を引き継いだ後に破産して、長男と長女で財産を山分けする、というインチキができてしまうからです。
なお、仮に貸主が同意してくれたとしても、受け取る財産と負債のバランスによっては、相続税の申告で不利になることがありますので、債務も相続する場合には税理士に相談することを強くお勧めします。
相続開始前に相続を放棄することはできない
相続は、ある人物が死亡することによって開始されますので、相続の開始前に相続を放棄することはできません。
ですから、多額の借金があることが明らかである方が死亡することによって相続人になる可能性があったとしても、相続開始前にあらかじめ相続放棄をすることはできません。
なお、相続放棄をするためには相続が発生し、自分が相続人になったことを知ってから三か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりませんので注意してください。
期限のある相続手続きに注意
相続に関する手続きには、期限の定められている手続きがあります。
主なものとしては、
相続放棄:自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月以内
準確定申告:相続開始から4か月以内
相続税申告:相続開始から10か月以内
相続登記:不動産を相続によって取得したことを知ってから3年以内
いずれも期限を過ぎると手続きができなくなってしまったり、罰金を科されたりといった不利益がありますので注意が必要です。
まとめ
今回は、相続についての基本をご紹介しました。
・相続は、ある人物が死亡することによって始まる
・相続人の範囲は法律で決まっている
・プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続しなければならない
・期限の決まっている手続きに注意
いずれも基本的なことではあるのですが、何度も体験することではないのでご不明な点、ご不安なことがあればご相談ください。
その養子縁組、ちょっと待って!相続対策としての養子縁組に潜む落とし穴
相続対策について調べていくと、養子縁組を勧める記事にたどり着くことが多いようです。
筆者も相続対策についての相談を受ける際、養子縁組についての質問をいただくことが幾度となくありました。
ですが、安易な養子縁組は相続の際に問題を引き起こしてしまうこともあるのです。
今回は、相続対策としての養子縁組について解説をしてみたいと思います。
相続対策として養子縁組が行われる理由は大きく分けて2つある
筆者の経験上、養子縁組を検討されている方が興味を持たれている理由は、大きく分けて次の二つでした。
パターン① 遺言を作らずに遺産を渡したい
遺産を渡したい相手と養子縁組してしまえば、遺言書がなかったとしてもいくらかの財産は養子に渡ることになります。
パターン② 相続税を減らしたい
相続税は相続人の人数によって基礎控除(非課税枠)が変化しますが、養子縁組することで相続人の人数を増やし、基礎控除を大きくしようとすることを狙うものです。
養子縁組は、事情によっては上記の理由に対して有効となりえますが、この後で紹介するように、トラブルのもとになる可能性も大いにあります。
一度縁組してしまうと容易に離縁できない
養子縁組というのは、養親と養子がお互いに成人していれば、両者の合意によって成立します(養子が未成年の場合には保護者との合意)。
なので、当事者のどちらかが縁組をするつもりがなければ成立しないのですが、その逆もしかりなのです。
どういうことかと言いますと、一旦養子縁組をしてしまうと、その関係を解消するには、やはり両者の合意がなければならないのです。
上記のパターン①で、面倒を見てくれていた甥に遺産を渡すため、養子縁組をされた方がいらっしゃいましたが、その後甥と不仲になってしまったため、縁組を解消しようとしたところ、遺産を目当てに縁組の解消に応じてくれないというケースがありました。
縁組は両者の同意がなければ解消できないため、遺産を渡すのが目的であれば、養子縁組ではなく、一方的に内容を変更できる遺言を作成する方法を選ぶ方をおすすめします。
また、パターン②の事例では、同居していた息子の配偶者を相続税対策のために養子にしていたところ、のちに息子夫婦が離婚してしまったにもかかわらず、息子の元配偶者が離縁に応じてくれなかったということがありました。
節税のために養子縁組をするのであれば、縁組の有無に関係なく、いつかは財産が渡る予定の相手(例えば孫)を養子に選ぶのが無難です。
ただし、その場合でも他の相続人から不満が出ないように配慮する必要があるでしょう。
養子縁組は必ずしも相続税を軽減させるとは限らない
養子縁組によって相続人を増やし、相続税の基礎控除枠を広げることで相続税を軽減させようと考える方もいらっしゃいますが、先ほどの事例とは違う理由で裏目に出てしまうことがありますので注意が必要です。
養子縁組をした場合、実子がいれば一人分、実子がいなければ二人分まで基礎控除が増加します。
ところが、実子がいない場合というのが問題となりうるのです。
例えば、子どものいないご夫婦で、夫には他に5人のきょうだいがおり、きょうだいにはそれぞれ2人の子どもがいたとします。
夫が亡くなった場合、その時点のきょうだいの生死によりますが、妻を含めた相続人は6人から11人となります。
ところが、例えば甥姪のうちの一人を養子にしていた場合、夫が亡くなったときの相続人は妻と養子の二人だけになってしまうのです。
これは、パターン②だけでなく、パターン①であったとしても同じ結果となります。
養子縁組の前後で、相続人がどう変化するのかは慎重に検討しなければなりません。
まとめ
今回は、養子縁組にまつわる落とし穴について解説してみました。
相続対策として縁組を検討する場合には、
・遺産を渡すのが目的なら遺言のほうが望ましい
・節税目的の場合なら逆に基礎控除が減ってしまう可能性を考慮すべき
という点にご注意いただきたいと思います。
完結間近の呪術廻戦、直毘人の遺言について考察のような妄想をしてみる
最終回までのカウントダウンが始まった呪術廻戦、展開早いですね。
伏黒も復活し、真希一人しかいなかった禅院家もメンバーは二人になりました。
伏黒が禅院家の当主になったのは、渋谷の戦闘が原因で死亡した直毘人の遺言で伏黒が次期当主として指名されていたからですが、あの相続関係のストーリーにはよくわからない点もありました。
そもそも検認もされていなければ公正証書でもない遺言書を相続人らの前で読み上げるような展開を前にして細かいことを言ってみてもしょうがないですが、司法書士という職業柄、どうしても気になってしまうのは、あの遺言の内容では、直哉が伏黒を亡き者にしたところで直哉には遺産が戻ってこないのでは?という点です。
あの時点で直哉が伏黒を暗殺しても意味がない
伏黒に対しては直毘人から包括遺贈(遺言による全財産の贈与)がされているので、伏黒がそれを拒否しない限り、相続の開始と同時に伏黒が遺産を取得したことになります。
その後で伏黒が死亡しても、伏黒の遺産を取得するのは「伏黒の相続人」であって、直哉ではありません。
ところが、伏黒は未成年であり、まだ子どももいません。
伏黒は両親とも死亡しており、津美紀とも血縁関係がない(甚爾が養子縁組してるとも思えない)ので、あの時点で伏黒が死亡してしまうと相続人不存在となってしまいます。
それでは伏黒に包括遺贈された直毘人の財産はどうなるのかというと、最終的には国庫に帰属することになります。
これでは、直哉が秘密裏に伏黒を葬ったとしても、直哉のところに財産は戻ってきません。
直哉は「殺してまえば後のことはどうとでもなる」と言っていましたが・・・
後の日車のエピソードが少年ジャンプとは思えないほど(モーニングとかビッグコミックみたい)のガチなリーガルドラマになっていたのと比べてしまうと、なおのこと禅院家の相続関連のアバウトさが気になってしまうところです。
どんな遺言なら伏黒暗殺という展開に説得力を持たせられたか
では、自分が後継者に指名されなかった直哉が、伏黒を亡き者にすることでその地位を乗っ取ることができ、なおかつストーリー的にも破綻しないためには、直毘人にどんな遺言を書かせればよかったのかを考察(妄想)してみます。
一番簡単なのは、呪具や屋敷などを信託財産、伏黒の叔父である甚壱を受託者、伏黒を受益者として、禅院家の維持と円滑な運営を目的とした信託を組成するという遺言を書かせる方法です。
そして、「伏黒が成人したら信託は終了し、伏黒が信託財産を取得する」「ただし、伏黒が成人前に死亡または意思能力を喪失した場合には(相伝術式の使い手である)直哉に信託財産を帰属させる」という条項を付けておくのです。
伏黒は未成年ですし、禅院一族との関わりもなかったので、このスキームなら伏黒が未成年のうちは受託者の名目で甚壱に伏黒の監視をさせることができます。
一方、直哉は成人前に伏黒を消してしまえば、直毘人の遺産を取り戻すことができる訳です。
他にも、呪具や屋敷の所有者を直毘人個人ではなく、社団法人としての「禅院家」にしておき、遺言によって伏黒に法人の社員としての立場を付与し、権力争いをさせるというのもHUNTER×HUNTERみたいで面白いかもしれません。
色々と妄想してしまいましたが、残り三話の呪術廻戦でどんな驚きが待っているのか、ファンとしては期待せざるを得ません。
そのままマネしちゃ駄目!ドラマ“虎に翼”のあの遺言
こんにちは。静岡で相続専門の司法書士事務所をやっている竹下と申します。
今回は巷で話題のドラマ、“虎に翼”について書いております。
マニア目線で見るフィクションの中の小道具
マニアというのは厄介なものでして、自分が興味を持っているものがドラマや映画や漫画に出てくると、ついついじっくり見てしまうのですが、可愛さ余ってなんとやらで、細かいところが気になってしまうのです。
「なんで日本の暴力団がドイツ軍にしか供与されていないライフルを持っているんだ」とか、「アメリカ映画のくせに、全弾撃ち尽くしたセミオートマチック銃のスライドストップが作動していない」とか、「作画の参考にしたであろう東京マルイのあのガスガンと同じ仕様の実銃は流通していないのでは?」とか、本筋とまったく関係ないところが気になってしまうんですよ。
前振りが長いですが、今回のネタは“虎に翼”に出てきた遺言書の内容についてです。
“虎に翼”というのはNHKで現在放送中の朝ドラです。
実在の女性法曹がモデルになっていて、法律関係の仕事をしている人のあいだでも話題になっているそうです。
私は、出かける前に洗濯物を干していたらアニメ「映像研には手を出すな」の浅草氏の声が聞こえる!と気が付いたのがこのドラマを見始めたきっかけだったのですが、それ以来見逃さないようにリアタイ視聴だけでなく、ばっちり録画もしています。
そんな“虎に翼”で、主人公:佐田寅子が結婚を考えていた恋人、星航一と事実婚をするために遺言を書く展開がありました。
「事実婚なら遺言は必須だよなー、分かってるじゃん」という謎の上から目線で感心していたのですが、ここでマニアの悪い癖。
うっかり一時停止してまじまじと内容を確認してしまうんですねー。
「ふーん・・・、こっ、これは・・・・・・ダメじゃん」
いや、ドラマの小道具としてはいいんですけどね、この遺言書でも。
ただ、世の中には同じような境遇の方も大勢いらっしゃって、そういった方たちが「そうか、こういう遺言を書けばいいんだ」なんてことになったらアカンわけですよ。
司法書士をやっていますと、いろんな遺言書が持ち込まれ、「これで相続登記をしてください」というご依頼をいただいたりするのですが、残念ながら使えないケースが結構あるんです。
遺言マニアとしては、そういった不幸なケースを少しでも減らしたく、これはブログで書かねば!という使命感からこの記事を書いております。
遺言書には遺言者の住所を必ず書こう!
「言いたいことは分かるけど使えない遺言書」というのは結構ありまして、そのなかでも残念としか言いようがないのが、遺言者の住所が書いていない遺言なのです。
なんでこういうミスが出るかというと、法律上、自筆の遺言書で必要とされているのは名前と日付と押印と、自筆で書くことだけなんですね。
なので、相続事件をあまり扱っておられない方だと、法律専門職ですら、うっかりと相談者に住所のない遺言を書かせちゃったりするんです。
金融機関によっては、OKにしてくれるところもありましたが、法務局は粘ってみたけれど無理でした。
同姓同名の人との区別がつかないというのが理由なのですが、確かにおっしゃる通りです。
今回ドラマに登場した遺言書も、見事に日付と氏名しか書いてないんです。
ドラマは実在の住所を書くと迷惑がかかるかもという配慮が働いたのかもしれませんが、架空の住所かNHKの住所でも書いとけばすむでしょうから、影響力の大きい朝ドラには、そうしておいてほしかったです。
住所の記載がない遺言書は、本ッ当ォ~に使えない(少なくとも相続登記では絶対)のでご注意を。
余談ですが、以前にも自筆証書遺言のことを扱っていたニュース番組で、画面に映っていた遺言書のひな形には住所の記載がありませんでした。
そのうち別の記事で書くかもしれませんが、新聞記事を参考にして作成された自筆の遺言書のせいでひどい目にあった相続人から相談を受けた経験のある私としては、どうしても専門家に頼りたくない方が遺言作成の参考にするのならテレビとか新聞ではなく、せめて専門の書籍にしといたほうがよいと思います。
「間違ってはいないが足りていない」ドラマに出てきた遺言書の問題点
遺言書の全体が映されていないのではっきりとは分かりませんが、どうやら航一は事実上の妻である寅子に3分の1、自分の子である朋一とのどか、寅子の娘である優未に対して各9分の2の割合で財産を渡すことになっているようです。
一方、寅子は事実上の夫である航一に3分の1、義姉である花江に3分の1、朋一、のどか、優未に各9分の1の割合で財産を渡すことになってるように読めます。
住所の件は別として、この遺言には内容的に二つの問題点があります。
一つ目は、「お互いに自分が先に死んだ場合のことしか想定していない」という点です。
この内容で先に航一が死亡した場合、寅子が航一の全財産の3分の1、朋一、のどか、優未は各9分の2ずつの割合で財産を取得します。
その後寅子が死亡した場合、花江は寅子の全財産(航一からの受贈分を含む)の3分の1、朋一、のどか、優未が各9分の1ずつを取得しますが、航一が取得するはずだった3分の1は、寅子の唯一の相続人である優未が取得することになります。
逆に、先に寅子が死亡した場合、航一は寅子の全財産の3分の1、花江も3分の1、朋一、のどか、優未は各9分の1ずつを取得します。
その後航一が死亡した場合、航一の財産(寅子からの受贈分を含む)から、まずは朋一、のどか、優未が各9分の2ずつの割合で財産を取得し、寅子が取得するはずだった3分の1は、朋一とのどかが遺産分割協議をして分けることになります。
そうなったら、朋一とのどかは、おそらく半分ずつで分けるでしょう。
仮に航一と寅子の財産の額が同じ程度で、最初の相続の発生後、次の相続まで財産の額に変化がなかったと仮定すると、相続人らは最終的に航一と寅子、二人分の資産を次のような割合で取得することになります。
航一が先に死亡した場合
朋一 18.5%
のどか 18.5%
優未 40.7%
花江 22.2%
寅子が先に死亡した場合
朋一 31.4%
のどか 31.4%
優未 20.3%
花江 16.6%
いかがでしょうか?
航一が先に死亡した場合、朋一とのどかが二度の相続で取得する財産は、花江よりも少なく、優未の半分以下です。
寅子が先に死亡すると、優未の取得する財産は航一が先に死亡した場合の半分になります。
結構な違いが生じていますよね。
現実に私が関わった事件でも、子どものいない夫婦が立て続けに亡くなり、先に亡くなった方の親族が、「死亡のタイミングが数か月違っただけでもらえる遺産に差が出すぎるのは納得いかない」といってトラブルになったケースがありました。
夫婦のどちらが先に死亡するかという完全なる不確定要素だけで、受け取る遺産に大きな差が生じてしまうというのは問題があります。
公証役場では予備的遺言とか予備的条項などと呼ばれていますが、相続させたり遺贈したりする相手が遺言者より先に死亡した場合には、宙に浮いてしまう財産をどうするのか記載しておくことがトラブルを回避するためには必要です。
二つ目は、「不動産について書かれていない」という点です。
劇中では航一の父親である星長官は亡くなっていますが、状況的にはおそらく航一が星長官の不動産を相続している可能性が高いでしょう。
そうなると、この遺言では、航一の実子である朋一とのどかが、寅子や優未と不動産を共有することになってしまいますが、その状態はあまり好ましくなさそうですよね(20240902追記:けっきょく劇中ではすぐに和解しましたが)。
どの子もまだ学生なので、将来どうなるかはハッキリしていないかもしれません。
ただ、そうであっても遺言というのは「書いた直後に相続が発生したとしても困らないようにする」というところを目指すべきです。
ですから、せめて寅子・優未グループと朋一・のどかグループが共有になる事態は回避できるよう配慮すべきといえます。
では、航一がまだ不動産を取得しておらず、将来的に継母である百合から取得する見込みである場合にはどうでしょう。
その場合には、「遺言者が相続開始時に下記不動産を取得していた場合には、○○に遺贈する(もしくは相続させる)」としておけばよいのです。
こっから先は本当に重箱の隅のお話
ドラマ的にはオッケーなので、この先の話は蛇足かもしれませんが、参考までに。
そもそも、遺言書というのは遺言者が死亡したときに効力を生じるものです。
また、「誰それが事実上の配偶者である」ということを宣言することに、法的な意味はありません(劇中では生活費の負担云々の記載もありましたが、死亡後には無意味ですよね)。
劇中では二人が親族の前で書いてましたから、法的効力よりも親族を安心させるためという意味合いが強かったのでしょう。
なので、自筆で作成する分にはご自由にどうぞの世界なのですが、公正証書で作成する場合、公証人によっては「誰それを事実上の夫であることを~」とか、生活費の負担について遺言本文に記載することについては難色を示されることもあるでしょう。
そういった場合には、付言で書くようにするなど工夫してみてください。
まとめ
ずいぶん長くなりましたが、今回の話をまとめると、こんな感じでしょうか。
・遺言書には遺言者の住所も書こう
・自分が先に死んだ場合だけでなく、パートナーが先に死亡した場合も想定しよう
・不動産の扱いを明確にしよう
・公正証書にするときは、法的な拘束力のない事柄は付言で書くのもアリ
フィクションの世界に現実の話を持ち出すのは野暮かとも思ったのですが、そのまんま真似しちゃう人がいると大変だな、ということでご容赦を。
“虎に翼”の残り話数も少なくなってきましたが、これから先、どんな展開が待っているのかネタバレ(史実)を見ないようにして楽しみたいと思います。
市町村への遺贈寄付はなぜ増えないのか
寄付が欲しい市町村と市町村を選ばない遺言者
7月31日に日本経済新聞が、遺贈寄付に関して磐田市と静岡銀行、浜松いわた信金が協定を結んだというニュースを報じていました。
遺贈寄付の件数を伸ばしたい市町村が金融機関との間で遺贈寄付に関する協定を結んだというニュースが時々報じられていることからも、まだまだ遺贈寄付の件数は少ないのでしょう。
磐田市も、これまではせいぜい年に1件あるかないかという状況だったそうです。
とはいえ、市町村に遺贈寄付をしたいと考えている方が全然いないという訳ではありません。
実は筆者の経験上、遺言の作成について相談をうけているときに寄付先として市町村を候補に挙げられる方はいらっしゃったのですが、最終的には候補から外されてしまうことがほとんどだったのです。
つまり、遺言の内容を考えているうちに市町村から他の団体へと寄付したい先が変わってしまっていたということです。
それはいったいなぜなのか。
今回は、いつもと少し趣向を変えて、遺贈先に選ばれやすい先は、どんな理由で選ばれているのかを解説していきます。
遺言書を作成したいけれど、どこに寄付をしたらよいか分からないという一般の方にも参考にしていただける記事だと思いますので、ぜひご覧ください。
寄付の使いみちがはっきりしている団体は選ばれやすい
遺言の作成を検討されている方は、ごくたまーに、40代から50代くらいの方もいらっしゃるのですが、大多数は70代以上です。
そういったご年配の方々が、ご自分がこれまでに築き上げてこられたご資産を誰に託そうかと考えたとき、長い人生において大事にし続けてこられたもの、感謝している相手、共感している対象を優先するのは当然のことでしょう。
具体的な団体を指名される場合には、付き合いの長かったお寺だとか、お世話になった医療法人だとかを選ばれることが多いです。
一方、ペットを飼っているので動物愛護関係にお金を役立ててほしいとか、自分たちには子どもがいなかったけれど、親を亡くした子どもたちのためにお金を使ってほしいとご希望される方は、そういった団体があったらおしえてほしい、とおっしゃいます。
冒頭にご紹介した磐田市は、遺贈寄付の際に寄付金の使途を指定できるようですが、市町村によってはそうでないところもあります。
これは、遺贈はいつ受けられるのか予想しようがないのと、寄付のあったときだけ予算を増やすわけにもいかないことから、仕方のないことでもあるのですが・・・
そうすると、自然と特定の目的のために活動している団体が寄付先として選ばれることになるわけです。
不動産を引き取ってくれる団体は選ばれやすい
遺贈寄付を検討されている方の多くは、いわゆるおひとりさま、おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)であることが多いのですが、そういった方々の悩みとして、「死後に自宅の処分をどうしたらよいのか」という問題があります。
この点につき、いくつかの公益団体は不動産の遺贈も引き受けられることをアピールされています。
私たちが遺言作成のご相談をいただく際、自宅不動産の処分について心配されていらっしゃる方に対しては、不動産もまとめて遺贈できる先として、そのような団体の紹介を優先することになります。
相談しやすい窓口の不在
ここまでは市町村に寄付をしようと考えていらっしゃった方の気が変わってしまう原因をご紹介しましたが、市町村に対して遺贈寄付の相談をしにくい原因の一つとなっているであろう事象をご紹介いたします。
当事務所で将来的に遺贈寄付をしたいというお客様から相談をいただいた際には、寄付を募集していることがどう見てもあきらかである団体を除いて、司法書士から寄付の受け入れ可否についてあらかじめ問い合わせをするようにしています。
依頼をいただいているお客様は、「いつ頃、いくらくらいの寄付になるか分からないので名前を伏せて問い合わせたい」と考えていらっしゃる方が多いからです。
このような問いあわせをすると、遺贈寄付を検討している誰なのかとしつこく尋ねられることもありますし、とんでもない話なのですが、遺贈の希望者を特定して生前に寄付をさせようと目論んでいるような口調の団体も・・・あります。
私たち専門家は寄付先の選定に関しては中立の立場ですが、遺贈に関して遺贈相手の開設した相談窓口には直接話をしにくいというのは当然のことといえるでしょう。
餅は餅屋、相続は相続の専門家に相談すべき
たとえば、ある飲料メーカーが新製品のテレビCMを作りたいと思った時、相談すべき相手はテレビ局だけではなく広告代理店も含まれますよね?
市町村が遺贈寄付に関して相談しようと考えたときも、金融機関だけではなく、そこと提携して実際に遺言を作成している信託会社とも相談すべきなのです。
実際、寄付を多く集めることができている慈善団体は信託会社へのアプローチも怠っていません。
筆者も信託会社に在籍していた際には、いくつかの慈善団体のPRを拝聴したことがありますし、そこを遺贈先としてお客様にご紹介したこともあります。
また、おひとりさまやおふたりさまは、亡くなった後の自宅や施設の後片付け、各種手続きの代行についても関心をお持ちであることが多いのですが、これらも信託会社と連携することで対応できるため、遺贈寄付と信託会社は相性がいいのです。
ですから、遺贈寄付に関しては、金融機関だけではなく、その提携先である士業事務所の運営する信託会社にもコンタクトを取り、三者で連携することが重要なのです。
まとめ
今回は、市町村に対する遺贈寄付が増えないことに関連し、
・特定の目的のために活動している団体は寄付先として選ばれやすい
・不動産を引き取ってくれる団体は寄付先として選ばれやすい
・遺贈する相手には相談しにくい
・遺贈寄付を増やしたいときには金融機関と信託会社に相談すべき
という内容についてお話させていただきました。
当事務所では一般のお客様からのご相談だけでなく、金融機関の本部で相続業務の推進に携わっていた経験を活かし、遺贈寄付を増やしたい市町村や、相続関連業務を増やしていきたいという金融機関からのご相談にも対応できます。
お気軽にご相談ください。
金銭的損得から考えるおふたりさまの遺言書の要否
遺言作成にお金をかけるのは無駄?
遺言の作成についてのご相談をお受けしている際、お客様が気にされることの上位に費用の問題があります。
確かに司法書士に依頼をするとそれなりの報酬をお支払いいただくことになりますし、ご夫婦で作成されれば単純にほぼ倍のコストがかかります。
そうなると、わざわざ現時点でお金をかけなくても、実際に相続が発生したときにどうすればいいか考えればいいや、という方向に気持ちが傾きがちです。
ですが、相続に関することは、相続が始まってしまった後ではどうにもならないことばかりなので、対策するなら生前に、なおかつ元気なうちにやっておくべきです。
今回は、遺言を作っておくことの損得を、金銭面から考えてみたいと思います。
おふたりさま(お子さんのいらっしゃらないご夫婦)の相続リスク
ときどき勘違いしていらっしゃる方もおられるのですが、お子さんのいらっしゃらない夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者がすべてを相続できるようになるわけではありません。
亡くなった方の親が健在であれば親が、両親とも亡くなっている場合には、亡くなった方のきょうだいもしくは甥姪が相続人として手続きに関わってくることになります。
相続人全員で遺産の分け方について話し合い、それがまとまってはじめて、遺産を自由に使えるようになるのです。この話し合いを遺産分割協議と言います。
ところが、遺産分割協議がまとまらない・できない場合があるのです。
こうなってしまう主な理由は次の二つです。
①相続人が協力してくれない
②相続人が認知症になっている
相続人が協力してくれないという①のケースは、手紙を出しても怪しがって返事をしてくれない場合も含みますが、困るのは法定相続分や、それ以上の財産を欲しがられてしまった場合です。
遺言がない時には、よほどの事情がない限り、相続人の有する法定相続分をひっくり返すことはできません。
なので、仮に裁判所まで行くことになったら、法定相続分は渡すことになるでしょう。
次に、②の相続人が認知症になってしまっている場合ですが、話ができなければ当然遺産の分け方についても決められません。
そのため、本人の代わりに成年後見人という役割の人を選び、遺産分割協議をしてもらわなければなりません。
成年後見人が選ばれた場合に大変なのは、法定相続分の遺産を、なるべく管理しやすい財産で相続させることを家庭裁判所から求められることです。
例えば、使っていない空き地があったとしても、その空き地でなく現金をわたさなければなりません。
さらに大変なのは、現行の制度では成年後見人は、本人が亡くなるまで終了できないということです。
相続の手続きが終わっても、後見は終わらないため手間とコストがかかるのです。
遺産分割協議ができない・まとまらないときのコスト
他の相続人が意思表示はできても話がまとまらず、弁護士を立てることになった場合には、着手金や報酬を支払う必要がありますが、仮に1000万円の遺産を受け取ることになったときには、トータルで100万円程度は費用がかかります。
なお、家庭裁判所で調停を始めた場合、通常1年程度、長いと2年から3年程度の期間を要します。
成年後見人が必要となった場合、次の費用がかかります。さらに、それに加えて法定相続分の資産を、原則として現金で相続させなければなりません。
後見人選任申立 10万円~
後見人報酬 24万円~@年(財産の額により変動、被後見人の死亡まで継続)
また、遺産はいらないと言っていた相続人も、被後見人が受け取っているのを見て、「それならやっぱり自分も欲しい」と意見をひるがえすこともあります。
相続対策の要否はリスクとコストを天秤にかけて考えるべき
もちろん、相続人全員が健康で、なおかつ協力的であれば、遺言書がなくても手続きはスムーズに進むでしょう。
ただし、相続人のうちたった一人でも認知症になってしまっていれば、その前提は崩れてしまうのです。
遺言書を作っておくことは、言うなれば保険です。結果的にはなくても大丈夫だった、ということになるかもしれませんが、不幸にもそうではなかった場合には、遺言を書いてくれた家族に感謝することになります。
特にお子さんのいらっしゃらないご夫婦の場合、遺言書の効果は絶大です。
亡くなった方の親が健在でも遺留分は遺産全体の6分の1で済みますし、両親とも亡くなっている場合には遺留分は問題とならず、夫婦間ですべての財産を相続させることができます。
遺言書の作成を当事務所にご依頼いただいた場合、報酬と公証役場の費用を合わせてお一人当たり20万円~30万円程度になります(ご資産の多寡によって変動します)が、何かあったときにかかる金銭的コストと比較すれば、かなり低く抑えられるはずです。
まとめ
今回は、
・おふたりさまの相続にはリスクがある
・リスクが現実化した場合には相続対策以上のコストがかかる
・相続対策はトラブル発生に備えた保険である
という内容で相続対策の要否についてご説明させていただきました。
当事務所にご相談いただければ、個々の家庭の事情に即したアドバイスをさせていただきます。
迷っていらっしゃる方は、ぜひともご相談ください。
相続に関する相談で失敗しないためのコツ
事前準備が相談の成否を分ける
令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、相続に関する相談の件数が増えています。
定期的に開催されている司法書士会や市区町村役場での無料相談会は予約でいっぱいですし、個々の司法書士事務所への相談、問い合わせも以前より増えています。
ところが、せっかく相談しに行っても、事前準備ができていなかったために時間が無駄になってしまうことがあります。
相談のために仕事を休んだり、遠くまで足を運んだのに満足のいく相談ができなかったらもったいないですよね?
そこで今回は、相続に関する相談をするときのコツをお教えします。
手ぶらで行っちゃダメ! 事前に用意すべきモノ
相続に関する相談で一番重要なのは、資産に関する資料を用意していただくことです。
例えば、「子どもが3人いるけれど長男に自宅不動産を相続させたい」という相談については、相談される方の金融資産と不動産、借入についての資料がないと、全くアドバイスのしようがありません。
相続に関する相談は、これからの関係者の人生をどうしたいか、そのために何をどうしたらよいかという相談に他なりませんが、そのためには財産の状況の確認が欠かせないのです。
将来に備えたい、という相談の際にご用意いただくべきモノ
・預金通帳
・有価証券に関する資料(証券会社の定期レポートなど)
・不動産の資料(固定資産税の請求明細、名寄帳など)
・借入に関する資料(返済予定表など)
すでに発生した相続に関する手続きの相談をしたいときにご用意いただくべきモノ
・亡くなられた方の預金通帳
・亡くなられた方の有価証券に関する資料
・亡くなられた方の所有されていた不動産の資料
・亡くなられた方の借入に関する資料
・亡くなられた方の戸籍(出生から死亡まで)
相談したいことの正しい伝え方
相談の予約をする際の、相談したいことの伝え方にもコツがあります。
役所などで開催される相談会では相談員の得手不得手もあったりしますので、例えば相続の相談だけれど後見人選任も必要なケースなどで、たまたま担当した相談員が後見事務について未経験だったりすると、適切なアドバイスが望めないケースもあります。
予約の時点で「どんな手続きを依頼したいか」(例:遺言書を書きたい、後見人をつけたい)ではなく、「最終的に目指したいのはどのような状態なのか」(例:自分たちの死後に障害のある子どもが困らないようにしたい)をお伝えいただくほうが、相談を受ける側も準備がしやすいので、相談をする側にとってもメリットがあります。
困っていることや気になっていることも予約の時点で伝えておくとよいでしょう。
相談までに親族間で話し合っておくこと
相談前に遺言書の書き方や家族信託のことなど、相談したいことについて予習してこられる方もいらっしゃいますが、特に必要はありません。
それよりも、可能な範囲で親族が相続後のライフプランについてどう考えているのかを共有していただくことをおすすめします。
例えば、子どもたちが将来、実家の不動産をどうしたいのか(住みたい、売りたい)だとか、県外に住んでいる子どもが地元に帰ってくるつもりがあるのか、といったことを相談前に確認していただいていると、遺言の作成についての相談でも遺産の分割についての相談でも方針を決めやすくなります。
まとめ
相続について相談するときには
①財産に関する資料を用意しておく
②予約の時点では最終的にどうしたいのかを伝える
③親族の意向を確認しておく
というのが相談を有益なものとするコツです。
大規模な相談会でも、個々の司法書士事務所でも、どちらで相談される際にも役に立つと思いますので、ぜひ参考になさってください。
当事務所でも、相続対策、老後の備えについての相談を承っております。
お気軽にご相談ください。