遺言なんて自分たちには無関係?
遺言書の作成サポートは、当事務所が最も力を入れている業務です。
私が相続対策のご相談を受けているときに「遺言書を作成したほうがよろしいのでは?」というご提案をすると、「ウチはみんな仲がいいから」「まだ早いかな」「遺言書くほど財産ないから」といった反応が返ってくることがあります。
ですが、遺産の額について言及させていただくと、相続人の間で話がまとまらず、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割調停申立事件のうち、遺産の総額が1000万円以下のものだけで約3分の1、遺産の総額を5000万円以下まで広げると、約4分の3となります。
つまり、家庭裁判所まで行かなければならないほど揉めている事件のほとんどは、フィクションの世界でありがちな大富豪の遺産をめぐる争いなどではなく、「自宅プラス退職金の残り」といったごく普通の資産を遺された家庭でのものなのです。
一旦揉めてしまうと、解決までは数年の時間がかかりますし、壊れてしまった相手方との関係は元には戻りません。
相続で争いが生じるのは、話し合いをするせいです。
相続人同士で争わないようにするためには、最初から話し合う余地がないように遺言を作成しておけばよいのです。
当事務所では、遺言を作成される方の意向を最大限尊重しつつ、「揉めないための遺言」を作成できるよう心がけております。
日本における遺言の作成状況と家庭裁判所の利用状況
日本では年間どのくらいの方が亡くなっているかというと、約140万人ほどです。
公証役場で年間に作成される遺言書は約11万件、家庭裁判所で自筆の遺言書が検認されるのが年間2万件ほどです。
これらの数字を単純に比較することはできませんが、亡くなった方が遺言を作成されている割合は高いとは言えないでしょう。
一方、家庭裁判所に遺産分割調停が申し立てられた件数は年間約1万2000件ほどです。
この数字だけでは争いの件数は少なく感じられるかもしれませんが、家庭裁判所で対応された相談件数に目を向けると、この10倍ほどの件数があります。
いきなり家庭裁判所に相談される方は少ないでしょうから、先に弁護士や司法書士の無料相談をうけている件数はさらに多いはずです。
相続に関しては、相続が発生した後でできることは限られていますし、多くの方は裁判所に行ってまで争いたくないと考えていらっしゃるため、納得できなくてもある程度のところで妥協しているということなのでしょう。
遺言書を作成する目的
そもそも、どのような目的、理由があって遺言は作られるのでしょうか。
遺言を作りたいというお客様に理由をおたずねすると、「揉め事が起こらないように」とか、「相続人に余計な苦労をかけないように」といった回答が返ってくることが多いのですが、少し視点を変えて遺産の分け方について注目してみると、遺言を作成する理由というのは大きく次の三つに分かれます。
① 特定の人に財産を多く渡したい
特定の相続人に財産を多めに渡したい、もしくは一人にすべての財産を渡したいという理由です。
同居してくれている子に多く渡したいとか、障害のある子を手厚く保護したいとか、長男に先祖から引き継いだ不動産をまとめて渡したいとか、子どもがいないので配偶者にすべて相続させたいといった事情の方が多いです。
② 特定の人に財産を渡したくない
特定の相続人に渡す財産を減らしたい、あるいは全く渡さないようにしたい、という理由です。
面倒を見てくれず、顔も見せない子どもに渡す財産を遺留分ぎりぎりに抑えたいとか、過去に発生した親の相続の際にもめたので特定のきょうだいには財産を一切渡さないようにしたいというような、不仲な人に財産をあげたくないという事情をお持ちの方がこのような遺言を作成されます。
③ 相続人間の公平性を保ちたい
複数の子どもがいるときに、各々が取得する財産の額が同じになるようにしたい、という理由です。
この理由は、一見すると遺言を作る必要性がないように思えますが、きょうだいの中に発言力の大きい子がいるとか、夫の相続の際に長男が多く相続したから自分の相続の際には他の子に多めに渡したいといった事情の方がこのような遺言を書かれます。
仲が良ければ大丈夫?
遺言書の必要性についてご説明しても、「うちの家族は仲がいいから」と仰られる方がいらっしゃいます。
ですが、将来のことは誰にも予測できません。
コロナ禍のように旅行業や飲食業など特定の業種が大打撃をうけるような事態が起こったり、大地震で被害を受けたりしてあてにしていなかった遺産をあてにしなければならなくなる可能性は否定できません。
また、ある程度予想できる範囲でも、孫の進学や結婚にお金がかかるので、遺産なんていらないと言っていた子どもがお金を欲しくなったりということもあります(実際多いです)。
また、いざ相続となったときに、相続人本人でなくその家族が「もらえるものはもらっておきなよ」と相続人をけしかけることも非常に多く目にします。
今現在仲がいいということは、あまりあてにはならないのです。
相続が発生したときに揉めそうなので、親に準備をしてほしいというご相談も多くいただきます。
実際に作成の準備に入る際には、遺言を作成されるご本人に面談しなければなりませんが、まずは家庭の事情を聞いてほしい、どんな対策が考えられるか相談したいというご要望も受け付けておりますので、まずはご連絡ください。
両親ともに亡くなったときは要注意
ご夫婦のうちのどちらかが亡くなった際には、のこされた方がお子さんたちをまとめてくださることで話し合いがスムーズに進むことが多いのですが、お二人とも亡くなってしまった時にはもめる可能性が高くなります。
特に、お父さんが亡くなった際に長男が多くの財産を取得しているようなケースは、お母さんが亡くなった時に他のお子さんが「お父さんの時には我慢したけれど今回は妥協するつもりはない」と主張されることが多いです。
お母さんのお考えが「お父さんのこととは関係なく遺産は等分してほしい」であっても、あるいは「お父さんのときには他の子に我慢させたから長男の分は減らそう」であったとしても、あらかじめ準備をしていただかなければ相続の際にその考えは伝わらないのです。