遺言書があっても、遺産がひとりでに相続人のところに移動してくれるわけではありません。
原則的には、相続人が協力し合って手続きをしなければならないのです。
例えば遺言書に「預金は長男、二男、長女に各3分の1ずつの割合で相続させる」と書かれていた場合、その3人で手続きをしないと預金の解約はできません。
仮に相続人のうち一人だけが銀行の窓口で解約手続きをした場合、その相続人が他の相続人にきちんと遺言書どおりにお金を渡してくれる保証がないため、銀行としては受け取る予定の相続人全員の同意がなければ預金を解約するわけにはいかないのです。
とはいえ、仕事で忙しかったり、あるいは高齢で出歩くのが困難だったりと、相続人全員が手続きに参加するのが難しいケースもあるでしょう。
そのような状況でも遺言の内容が実現できるよう、相続人に代わって相続手続きをすることのできる役割の人を遺言執行者と言います。
遺言執行者になれるのはどんな人?
遺言執行者になるために必要な資格や条件はありません。
未成年と破産者は遺言執行者になることができませんが、そうでなければ弁護士や司法書士のような専門職でなくとも、誰でもなることができます。
遺言執行者はどうやって選ばれるの?
遺言執行者が選ばれる方法は二つあります。
一つは、遺言書で指定する方法です。
遺言書の本文中にどなたかを指定する旨を記載しておくだけでよいのですが、その方が引き受けてくれないと困りますので、あらかじめ遺言執行者を引き受けてくれるかどうか確認しておくのが良いでしょう。
もう一つは、家庭裁判所に選任の申立てをする方法です。
遺言執行者を引き受けてくれる方を候補者として、家庭裁判所に選任を申立書を提出します。
こちらは、相続人全員で揃って手続きをするのが困難であったり、必ず執行者がいなければならない内容の遺言が書かれているのに執行者の指定がなかったり、遺言書で指定された遺言執行者が就任できない場合などに利用する方法です。
あくまでも選任申立てであるため、審査はありますが、候補者が遺言執行者に選ばれなかったという話は聞こえてきませんので、よほどの問題がない限りは申立て通りの選任がなされるようです。
遺言執行者には誰を選んだらいいの?
遺言執行者には一定の義務が課されていますが、そこまで難しいものではありませんので相続人のうちのどなたかを選んだとしても問題ないでしょう。
ただし次のようなケースは専門家に依頼したほうが好ましいと思われます。
財産があちこちに分散している
取引のあった金融機関が一ヶ所だけだったり、不動産がご自宅だけであるような場合は手続きも大変ではありませんが、あちこちに預金口座や不動産がある場合には、専門家に依頼してしまったほうが楽でしょう。
受け取る遺産の量に偏りがある・相続人同士の仲が悪い
遺産を多く受け取る人が遺言執行者になった場合、自分より少ない財産しかもらえない人を相手として手続きをしなければならないので気まずくなります。
また、不仲な相手と連絡を取り合わなければならないのも心理的負担が大きくなりますし、財産を隠しているのではないかと疑われるケースもありますので、このような場合にも第三者である専門家に依頼するのがよいでしょう。